Column

土佐高等学校(高知)

2016.03.23

「徹底」に立脚する「明晰」で目指す40年ぶり校歌

 大会第4日の3月23日(火)・第1試合で大阪桐蔭(大阪)との初戦を戦う3年ぶり8度目のセンバツ出場・土佐(高知)。名実共に高校野球の盟主たる強豪相手に、彼らはいったいどのように戦おうとしているのか?今回は昨秋22年ぶり四国大会ベスト4進出の原動力にもなった「徹底」とそこに潜む「明晰さ」について、指導者・選手両方の側面から迫っていく。

「徹底」継続で見違えるように上がった実力

選手たちに話をする楠目 博之部長(土佐高等学校)

 もう、半年前のおどおどした姿はそこにはない。
2月下旬の高知市南部にある土佐高校向陽グラウンド。陽光に包まれながら「一死一塁・1球勝負」から始まるケースバッティングでも、3つ先のプレーまで続くラウンドボールでも、彼らは堂々とプレーする。たとえミスがあったとしても楠目 博之部長・西内 一人監督の指摘に対する選手たちの修正は極めて速やかである。

 というのも、彼らの練習は細部に至るまで狙いが明確、かつ徹底されているだからだ。たとえば打撃での基本コンセプトは「ポテンヒット」。フリーバッティングは「高めを打たず呼び込んで振り切ります」(西内監督)。振り切るから詰まっても内野手の頭を越える。ケースバッティングも守備を付け、状況をどんどん作った中で進める。
時間の許す限りハードに練習する一方で、毎週月曜日は座学の時間。甲子園出場時の生活から戦術的な話まで、伝達・徹底事項は多岐に渡った。このように、四国屈指の私学進学校ならではの自らの特性を理解し、駆使した冬のアプローチは、めざましい実力アップアップにつながっている。

 その裏には栄光をつかみとってきた歴代OBたちの絶大なる支え。そのうちの1人が萩野 文康氏。高校時代は2年夏の1967年土佐を甲子園ベスト8に導き、慶応義塾大・新日鐵八幡でも活躍したレジェンド左腕。指導者としても新日鐵八幡や日本代表を率いた経験を活かし、昨年夏から定期的に投手陣、打撃・守備の基本動作を指導している。

 昨秋「10番」からセンバツでエースナンバーを背負うまでになった尾崎 玄唱(2年・右投左打・165センチ60キロ・土佐中出身)、中堅手兼任ながらここに来てストレート、4種類を操る変化球共にキレが増している吉川 周佑(3年主将・左投左打・166センチ63キロ・土佐市立高岡中出身)の急成長も「わかりやすい」と選手たちが異口同音に話すコーチングなくしては語れない。「よくなってきたね」と話す萩野氏の視線は南国土佐の太陽のように穏やかである。

 そして3年前の21世紀枠出場時には優勝を果たした浦和学院(埼玉)に善戦健闘を果たす好采配。今大会では「2点に抑えて3~4点取る」をコンセプトに目を配ってきた西内監督と昨年4月からタッグを組む楠目部長。かつては土佐の「全力疾走」を作り上げた故・籠尾 良雄監督の懐刀としてコーチ・部長職を計10年間務め、約5年間指揮官も歴任。今回18年ぶりに野球部へ戻り、31名の選手たちを叱咤激励する59歳も、土佐を「原点回帰」に導いた功労者の1人である。

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[page_break:指導陣「みんなが待ち望む」校歌斉唱への想い / 「徹底」の意を汲み、自らを日々「明晰に」高める選手たち]

指導陣「みんなが待ち望む」校歌斉唱への想い

右奥から時計回りに松原 頌季・吉川 周佑・土居 凌太郎・吉原 太朗・川村 智哉・尾崎 玄唱・柴田 大輔・森﨑 勇斗・楫 憲護(土佐高等学校)

「基本的な部分は秋に比べたらチームはできてきた。12月は課題だった内野守備の形を覚えて、そこは取れてきたし、キャッチボールを続けてきたことでスローイングもよくなってきた。キャッチャーの楫 憲護(3年・右投右打・170センチ75キロ・出雲雲太ボーイズ<島根県>出身)の送球も格段によくなっています。今は二盗を刺せる可能性はあります」

 練習メニュー最後のサーキットトレーニングをベンチで見つめながら、こう話し始めた楠目部長。選手たちの前では常に吊り上がった眉をやや緩め、選手たちの前では決して言わない褒め言葉を並べる。
その評価に至る判断基準や積み上げかたは「土佐=籠尾監督の野球」。寸分の違いもない。「自分のできることをまずはしっかり。自分の方から崩れないようにして、粘り強くやっていく」バッティングでの「高めを打たない・ポイントまで引き付けてフルスイング」もその一環だ。

 さらに、土佐には土佐の校風ならではの強みがある。「弱いところもそのまま出してくれる。裏表がない。これは自分が監督だったころと実は変わらない。
それがウチの生徒のよさ、賢さ。吸収が速いから目に見えてよくなるんです。『10言って10解る』ここがウチの選手にはあると思いますね」。楠目部長は「全力疾走」の4文字に集約される「土佐らしさ」の真意をわかりやすく説明してくれた。

 よって楠目部長は選手たちに対し、センバツ出場が決まった後にこんな話をしている。「土佐らしい野球をすること、それがまずくる。その上で勝てればいい」

 ただ、楠目部長はこうも話した。「何がなんでも勝ちたい。校歌を歌いたい。是が非でも1勝したい。これは籠尾先生の悲願なんです」。これは楠目部長のみならず、西内監督も、萩野氏も、練習を見つめる多数のOBたちも。そして野球部・学校関係者たち、籠尾監督の想いを引き継ぐものたちの切なる願い。その遺伝子は現役にも確かに注入されているはず。そこで練習後、先輩たちの想いが詰まった野球部寮「右文寮」、普段は練習後、補習の場となっている「自習室」で選手たちに話を聴いた。

「徹底」の意を汲み、自らを日々「明晰に」高める選手たち

 集まってもらったのはセンバツの背番号順に尾崎・楫・柴田 大輔(2年・一塁手・右投右打・174センチ77キロ・大阪東淀川ボーイズ<大阪府>出身)・土居 凌太郎(3年・二塁手・右投右打・175センチ68キロ・高知県立高知南中出身)・森﨑 勇斗(3年・遊撃手・右投右打・169センチ65キロ・須崎市立須崎中出身)・松原 頌季(3年・左翼手・左投左打・174センチ70キロ・土佐中出身)・吉川 周佑吉原 太朗(3年・右翼手・右投右打・168センチ60キロ・高知市立城北中出身)・川村 智哉(3年・外野手・右投左打・166センチ63キロ・土佐中出身)の9名である。

 主将の吉川 周佑いわく「校長先生にセンバツ出場決定を告げられた時、嬉しくて胸がいっぱいになった」感動の1月29日を契機に晴れ舞台への準備を進めた彼ら。会話の中でそこへの「明晰さ」はすぐに感じ取れた。

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[page_break:向上心とハングリー精神で勝利への「全力疾走」へ]

 たとえば1つ質問を投げればその2つ先、3つ先の狙いを汲んでボケキャラクターの選手は「センバツ選出の仕組みを知らなかった」森﨑に代表されるようにお約束通りボケ、真面目キャラの選手は「3年前の21世紀枠出場を見ていたので、今回も土佐の伝統を守らないといけないと思った」松原のように的を射た回答を出してくれる。
 

 しかも個々の課題を聴くと「自分は引っ掛けて打つことが多いので、右方向を意識してトスやティーバッティングから流し打ちをしている」土居のように、身体の動かし方も含め、詳細に改善すべき点を把握している。「左ヒジを使うことで、右腕をスムーズに送球位置に持ってくるように」楫は二塁送球タイム向上のポイントを述べれば、尾崎は股関節の移動精度向上を現在のテーマに明示。

 そして川村はスローイング向上の大きな契機についてこう話す。「今年1月はじめにトレーナー・前田 健さんの講習が2日間あって、スローイングの基礎、いいスローイングと悪いスローイングを学びました。
そこでは4箇条というのがあったんです。肩越しに投げる相手を見て、そのまま体重移動、そこでトップをしっかり作り、回転で投げる」これにうなずく8人。さながら自習室は「野球勉強会」と化した。

向上心とハングリー精神で勝利への「全力疾走」へ

全力疾走でケースノックの守備に散る土佐の選手たち(土佐高等学校)

 だからこそ彼らは「徹底事項」も自分の状態を理解した上で体現しようとする。吉原は言う。
「僕は1番をさせてもらっているのですが、実際には第一打席しか、しかも四球でしか出塁できていない。その原因を自分で考えると自分が外にポイントを置いていたことでドアスイングになっていた。インハイを左中間に打つイメージにしたら、よくなってきました」。

 また、柴田は「置きティーをしてインサイドアウトを意識しています」と別のアプローチをかけている。高めを打たないチームの徹底事項を体現するために、イメージづくりの部分では自分の特性を理解しそれぞれの意識を持つ。この「明晰さを伴った向上心」は土佐でしかできない、すなわち土佐が最も強調すべき強みである。

 さらに彼らにはもう1つの強みがある。昨秋、高知県大会初戦から続いた胸突き八丁を通じて得た「ハングリー精神」。「相手が10で自分たちが5だったとしても、すべて全力疾走で僕らのペースに持っていって、相手を4の力しか出させないようにする」右文寮寮長も兼ねる土居の目指す方向性は、そのままチームの方向性と合致する。

 その部分では初戦の相手・大阪桐蔭は彼らにとって最良の組み合わせかもしれない。まだ、組み合わせの相手が決まる前だった取材日。主将の吉川 周佑はこう締めくくった。
「自分が先頭に立って頑張ることでチームも活気づく。僕が打ったり、いい投球をしたらチームが活気づく。勇気を与えたい」

 グラウンド上の選手たちだけではない。スタンドの大応援団にも勇気を与える戦いへ。純白のユニフォームに身を包んだ選手たちはおごらず、怯まず、勝利への「全力疾走」を尽くしていく。

(取材・写真:寺下 友徳


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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