音楽プロデューサーとしてCHEMISTRYやいきものがかりの結成、デビューなどで手腕を発揮する一方で、半世紀を超えるアマチュア野球観戦により野球の目利きでもある一志順夫。連載コラム「白球交差点」は、彼独自のエンタメ視点で過去と現在の野球シーンとその時代を縦横無尽に活写していきます。
「根本イズム」に感化され、音楽レーベルの運営にその手法を取り入れ即効性を実感
プロ野球のペナントレースもいよいよ第4コーナーに差し掛かってきた。シーズン前の順位予想ほど当てにならないものはないが、ご多分に漏れず筆者の予想も甘くみても自己採点は60点というところだ。特にパ・リーグで首位ソフトバンク・ホークスと最下位西武ライオンズがこれほどのゲーム差になるとはまったく想定できなかった。
両チームの今季の戦力分析については他に譲るとして、この両極端な戦績を眺めるとどうしても一人の男の顔が浮かんでくる。それは「球界の寝業師」という異名をとった根本陸夫である。プロ野球選手としては派手な活躍ができなかったものの、指導者になってからはその異能ぶりを存分に発揮、昭和~平成にかけてプロ野球界の改革と発展に多大な貢献をした人物だ。
今夏「暗躍の球史-根本陸夫が動いた時代-」(高橋安幸著 集英社刊)が上梓され、一読してあらためて根本睦夫の仕事ぶりと功績を再確認したわけだが、とりわけ西武ライオンズとダイエー・ホークス(現ソフトバンク)という身売りされたばかりの新興球団を常勝軍団に仕立て上げていくまでのチーム作りのメソッドと経営戦略は、野球界だけでなく一般社会においても充分に効力があるだろう。実は筆者が音楽レーベルの運営をしていた時、この「根本イズム」に感化され、参考にしながら組織体制作りや人事、スカウティング活動を行っていたことがある。
例えば、「チームを劇的に変えたいときは、人を変えるのが一番だ。コーチを外部から連れてくる。トレードで選手を入れ替える」という根本の考え方は、痛みも伴うがキャスティングさえ間違えなければ、最も即効性のある方法論だったことは身を持って体験した。ベテランスタッフの存在や成功体験が足枷になったり、風通しを阻害していることはままあり、またアーティストも右肩上がりで売れ続けることは難しく、長くレギュラーポジションを与え続けていると、そこに安住することによって作品の質や鮮度が低下してくる。常に将来を見据えて新陳代謝が要求されるところは、ドラフト戦略含めたプロ野球球団の編成業務と一脈通じていると思う。