3年生10人だけで戦う和歌山南陵が初戦突破。今年から新しくなったレゲエ調の校歌が紀三井寺公園野球場に響き渡った。この斬新な校歌はSNSでも反響があった。

 2016年に開校した和歌山南陵は19年秋の近畿大会に出場するなど、着実に力を付けようとしていた。しかし、22年に教職員への給料未払いなどの問題が発覚。翌年から生徒募集停止の措置命令を受けた。

 そのため、全校生徒は3年生18人しかおらず、野球部員も10人しかいない。学校は経営陣を一新して再建を図っているが、来年度に新入生が入って来るかはわからない。たくさんの困難を抱えて戦っているが、岡田浩輝監督は「選手たちを可哀そうとは思ってほしくない」と話す。

「学校生活も寮生活も野球も楽しんでやっているし、人数が少ないから、学校がどうだからというところに選手たちは思うことがないというか、楽しんでやってくれているので、可哀そうではなくて、楽しく最後までやれている子なのかなと思います」

 選手たちも高校生活最後の夏を心から楽しんでいる。主将の渡邊 蓮(3年)は周囲に「笑え」と常に声をかけていたという。1番三塁の佐々木 陸斗(3年)「エラーしても打てなくても笑っておけば、野球の神様が自分たちの方によって来るかなと思っています」と話していた。

 試合はエースの松下 光輝(3年)が初回に自己最速を3キロ更新する143キロをマーク。「無駄なボールが多かったですけど、ピンチで抑えられて良かったです」と8回を投げて、4安打無四球12奪三振無失点の好投を見せた。

 3番打者の松下は打っても活躍。1回裏の第1打席では一死三塁から左中間へ先制の適時三塁打を放った。

 松下の投打に渡る活躍で勢いに乗った和歌山南陵は2回裏に7番・山塚 虎大朗(3年)のソロ本塁打が飛び出すなど、4回までに4点を奪って試合を優位に進める。

 しかし、4回裏に正捕手の中村 聖(3年)が頭部死球を受け、佐々木も走塁中に左膝を負傷。唯一の控え選手である畑中 公平(3年)も足を痛めていて万全ではない。治療を経て、何とか二人はグラウンドに戻ってきたが、見ている側としては少しハラハラした。そんな中でも岡田監督は心配していなかったという。

「練習試合をやらせて頂いて、そういうこともたくさんあったんですけど、それでも10人みんなが最後まで頑張ってやってきてくれているので、心配はしていなかったです」

 畑中も8回裏に代打で出場し、9回表は右翼の守備に。最終回は山塚が三者凡退で締めて、無事に勝利を収めることができた。

「今日は楽しめたので、楽しめる試合をこれからもやっていきます」と話した渡邊。笑う門には福来る。そんな戦いをこれからも見せてくれそうだ。