「フィジカルは正義」

 打撃フォームの修正で安定感を手に入れると同時に、冒頭で記したようにパワーもアップしている。

 特にベンチプレスは一冬で大きく伸び、昨年12月は105キロだったのが、取材時は130キロにまでなっていた。週3回のウエイトトレーニングに加え、朝食500グラム、夕食では900グラムのお米を食べる食トレも欠かさず行いながら、ベスト体重85キロを維持。スピードとパワーを両立したコンディション調整を行っている。

「やっぱり“フィジカルは正義”といいますか、パワーが付いたことで、飛距離は変わってきました。木製バット特有のしなりも上手く使えるようになり、より飛ばせるようになりました」

 モイセエフは胸を張った。

 豊川の長谷川裕記監督はモイセエフの成長についてこう語る。

「昨秋よりもひとまわり体が大きくなったことで、スイングが強くなりました。打ち方も試行錯誤しながら、タイミングが取れるようになりました。『これで満足してはいけない』と思いながらも、彼の成長に手応えを感じています。スカウトの方がどう評価しているかはわかりません。しかし夏、チームを勝利に導く打撃ができれば、自然と上がると思います。まずは目の前のことをやってほしいと思っています」

 とはいえ、課題がないわけではない。取材当日に行われたシート打撃では無安打だった。

「タイミングの取り方自体は悪くないので、微調整がうまくできればと思っています」

 長谷川監督はモイセエフの課題をこう語る。

「打席ではつねに警戒されていますし、“打って当たり前”の雰囲気の中で受け身になっているんです。本人には『君が打たなくても、あとの打者がいるんだよ』と言っています。期待が少し重荷になっているようです。打撃は『打てないことが当然だ』という割り切りが必要です。『打ちたい、打ちたい』という気持ちが強すぎると、打たなくていいボール球を手を出し、打撃が崩れる要因となってしまいます。『結果を気にしなくていい、自分のスイングをしなさい』と彼には伝えています。

 結果を求めすぎて小さな打撃になっても、強引になって大きな打撃になってもいけない。自分のタイミングで思い切って振ってほしいです」

「誰もが認めるバッターになりたい」

1 2 3