創部8年目の開智未来は、名門・花咲徳栄と同じ埼玉県加須市に学校があり、指揮官・伊東悠太監督のもとで、「世界平和を考え行動できる人材の育成」という目標を掲げて、選手育成にあたっている。
あまりにも規模の大きい目標に驚きが隠せないが、「ただ結果が伴ってこその目標だと思っていますので、選手にも話しています」と伊東監督は語り、あくまでも貪欲に勝利を求めて甲子園を目指しているという。
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U-18監督を務めた名将から教わった金言
たしかに人間育成に力を入れるといっても、結果が出なければ「逃げているだけではないか」と指摘をされても仕方ない。伊東監督もそうした発想から、結果を重視しているかと思ったが、意外な人物の教えが関わっていた。
「『伊東くん、人間性って言う監督はいるけど、結局は本気になって甲子園を目指すことが、本当の人間性育成に繋がると思うんだよ』って言われたんです。それがすごく大事なことなのかなって思って、ずっと結果にはこだわっています」
伊東監督がいまも胸に秘めた言葉を残したのは、小倉全由氏。関東一、日大三と監督を務め、2024年は侍ジャパンU-18代表に就任した高校野球界の名将の1人だ。
伊東監督のなかで、「大好きな監督なんです」ということだが、正直つながりがあったわけではない。しかし、大学1年生の夏、「勉強させてもらおうと思って、電話をして『学ばせてください!』って話をしたんです」と直談判で、1日だけグラウンドに行く許可をもらった。
「当時は色んなことを学びたかったので、お願いして実現したんです。ただ、その日限りだったので『ありがとうございました』って終わると思ったんですけど、小倉さんから『今日は来てくれてありがとう』という言葉とともに、その場でノックバックを持ってきてくれて、『今度も来て、このバットでノックを打ってよ』って話してくれたんです。
正直、母校じゃないですし、勉強させてもらう立場なので、『ありがたいんですが、正直ノックを上手く打てないです。空振りだったり、ドライブしたり、色々あるかもしれないので』って断ろうとしたんです。
でも、『その色んなやつが良いんだ。いろんな打球を捕れた方が選手たちも勉強になるんだ』って言って、受け入れてくれたんです。それから4年間、寮にもいかせてもらいながら、勉強させてもらったのは、大きな経験でした」
そうやって伊東監督がチームに携わるようになったのは、2005年の夏が終わってから。当時、西東京と言えば、ハンカチ王子・斎藤佑樹投手がプレーしていた早稲田実が覇権を握っていた。ゆくゆく全国制覇を成し遂げるライバル相手に「俺はもう二度と甲子園に連れていけないかもしれない」と、小倉監督も弱気になるときがあったという。
それほど名将との距離を縮めていた伊東監督。当然、当時の選手たちもコミュニケーションを取る機会があったが、その時の選手たちの姿勢に学ぶことがあったそうだ。
「選手たちは『小倉監督を必ず甲子園に連れていくんだ』ってずっと言っていたんですよ。当時、自分と選手たちの年齢は近かったので、小倉監督に対する愚痴が出ても良いと思っていましたけど、誰も言わないんです。
それは監督が全員に慕われているからだと思うんです。スタメンはもちろんですけど、ベンチ入り、もっといえばスタンドの選手であっても、小倉監督が愛されるような距離の近い指導をやっているからだと思います。なので、自分も選手たちと距離を縮めて指導するようにしています」