<秋季東京都高校野球大会:二松学舎大付6-5早稲田実(延長12回タイブレーク)>7日◇決勝◇明治神宮野球場

 早稲田実二松学舎大付が秋季都大会の決勝戦で対戦するのは43年ぶり。その時は、早稲田実のエースは甲子園のアイドル・荒木 大輔。二松学舎大付のエースは現監督の市原 勝人だった。この時は二松学舎大付が9回二死まで4-2でリードしていたが、9回表に早稲田実が6点を入れて逆転し、優勝している。二松学舎大付の市原監督としては、まさに43年ぶりのリベンジの機会である。対する早稲田実は、43年前に夏の地方大会と秋季都大会の連続優勝をして以来、夏秋連続優勝をしていない。歴史の扉を開けるのは早稲田実二松学舎大付か。その意味でも注目の一戦だった。

 今年の秋季都大会は比較的温暖な気候の中で行われたが、決勝戦は冷たい北風が吹く中で行われた。しかも慣れないナイターの試合。序盤は決勝戦の固さもあって、ミスの多い展開になった。

 二松学舎大付の先発・河内 紬(2年)は今大会、準決勝は快投を繰り広げたものの、1、2回戦は力んで内容的には悪かった。試合ごとに好不調があったが、この試合、味方の失策もあり3回表に3失点をし、3回で降板した。

 早稲田実の先発・中村 心大(2年)も、2回裏にバッテリーエラーが続いて失点するなど、波に乗れない。しかも、二松学舎大付は、夏までの片井 海斗内野手(3年)のような柱になるような打者はいないものの、1人1人が球に食らいつき、粘り強い打撃をする。投球がやや荒れ球ということもあり、中村は5回に26球、6回に32球を投げて、7回が終わった時点で137球を投げており、7回で降板した。

 4回から二松学舎大付は河内に代えて及川 翔伍(2年)をマウンドに送る。及川は、準々決勝以外は全試合にリリーフで登板している。「ピンチに燃えるので、リリーフが好きです」と言うだけあって、強気の投球で押していき、5回、7回に失点したものの、最少失点に抑え、試合を作る。

 7回の投球を終えて早稲田実の中村が降板した時点で得点は早稲田実5、二松学舎大付4で、早稲田実のリードはわずかに1点。8回裏早稲田実は2番手として196センチの長身、浅木 遥斗(2年)を投入したが、制球が定まらないうえに、内野安打2本と犠打で、一死二、三塁のピンチを招く。すぐに1年生の田中 孝太郎に代えた。二松学舎大付もここで勝負に出て、当たっていない4番・福和田 啓太内野手(1年)に代えて今井 悠斗(2年)を打席に送る。今井はきっちり右犠飛を放ち、5-5の同点になった。

 前半ややもたついた感じのあった試合は、ここから、稀に見る名勝負に変わる。

 9回裏二松学舎大付は、一死二塁から前の打席で投手ながらライトフェンス直撃の二塁打を放った及川を迎える。早稲田実は及川を申告敬遠で歩かせる。二松学舎大付は、代打に準々決勝の日大三戦で4打数3安打と当たっていた大橋 零外野手(2年)を送る。大橋は痛烈な打球の一直になり、当たりが良すぎて併殺になる。

 タイブレークとなった延長10回はともに、二松学舎大付は入山 唯斗内野手(2年)、早稲田実川上 真内野手(2年)という遊撃手の本塁への好送球で得点を許さない。10回表が終わり、4回からリリーフしている二松学舎大付の及川の球数は105球に達していた。10回で試合が終わらず、「つらかったです。気持ちが折れそうになりました」と及川は言う。それでも、「負けたくない。ここからだ」と思い直して、11回のマウンドに立つ。11回表早稲田実は一死二、三塁としたが、及川は、中村に代わり3番に入っている田中を三振、当たっている4番の山中を一ゴロに仕留める。

 無死一、二塁から始まる11回裏二松学舎大付は、今大会当たっている甲斐 虎茉輝外野手(2年)を代打に送ったが、三ゴロ。早稲田実の三塁手・喜澤 駿太(2年)の好守で併殺になる。早稲田実の1年生・田中は、なおも続くピンチを冷静に切り抜ける。

 試合はタイブレークに入っても両チームに得点が入らない異例の展開で12回に突入する。12回表早稲田実は5番・國光 翔内野手(2年)の右前安打で無死満塁となったが、及川は当たっている6番・喜澤を三ゴロ。続く2人を「真っ直ぐを打たれたら、仕方ない」と気力でストレートを中心に投げ込み、2人続けて三振に仕留める。

 そして12回裏、一死満塁で10回から守備についている1年生の根本 千太郎内野手が打席に入る。根本について市原監督は、「ファイター。これから力を付けてくる選手」と期待しつつも、「ヒットが出ることが想像できなかった」と考え、「どこかでやるしかない」と決めていたスクイズを、3球目に敢行。根本が冷静に決めて熱戦に終止符が打たれた。

 二松学舎大付の秋季都大会優勝は21年ぶり。その間決勝戦は5連敗していた。しかも43年前、自身がエースで戦って敗れた早稲田実を破っての優勝だ。「感慨無量です。(選手は)大したものです」と市原監督は、教え子であり、後輩でもある選手たちを称えた。

 今大会の二松学舎大付は、1回戦の日体大荏原戦、2回戦の八王子戦では初回に先制され、苦しみながら勝った。これまでのように、大江 竜聖(現巨人)や3年生の片井のような看板になる選手はいない。「チームみんなで補えあえた」と市原監督が言うように、試合ごとにヒーローが変わり、不振の選手をカバーした。控えの選手を含めた選手の層の厚さ、優勝への思いの強さが21年ぶりの栄冠をもたらした。

 敗れた早稲田実は、甲子園でも活躍した中村―山中のバッテリーに引っ張られるようにチーム力を上げていった。チームのエースであり、主将でもある中村が7回で137球を投げて降板した後も、二松学舎大付と好勝負を繰り広げたことに、このチームの成長を感じた。