各球団フロントには指導者の本気の育成、人事制度の近代化と改革を望む

 著者によると、阪神の場合、上述したように親会社、フロント、現場が一枚岩になることは稀で、逆にそのラインが一気通貫した時には優勝できている、と分析している。あの広岡 達朗も監督オファーを受けた際、「フロントと現場が真の一枚岩になるため、本当に強い組織を作るために5年は時間が必要」と出した要求を阪神側に受け入れる覚悟がなく、破談になったという。それでいうと、焦らずじっくり腰を据えてチーム作りをさせてもらえない限り、藤川政権は短命に終わりそうな気配が濃厚だが、持ち前の野球理論とプレゼン能力で何とか積年の負の連鎖を断ち切ってもらいたい。

 以前某元ドラ1投手から聞いた話では、昭和から平成にかけては、監督コーチ人事はほぼ派閥力学で決められていて、能力や技術に疑問符がつくコーチがゴロゴロいたという。そういうコーチに限り、自分の理論の押し付けで下手にフォームをいじくり、自身含め選手の才能の芽を摘み取っていく光景をいくつも目の当たりにしたそうだ。

 今の時代、アナリストの解析によるデータ野球が主流となり、こうした非科学的でアナクロな指導は影を潜めつつあるとは思うが、人事そのものはまだまだ情実優先の事例が後を絶たない。名選手が必ずしも名監督、名コーチにはならないことも歴史が物語っているし、メジャーではむしろそれが当たり前になっている。各球団フロントは、選手だけでなく指導者の育成を本気で取り組み、派閥や人間関係に依拠しない人事制度の近代化と改革を推進して欲しいものである。

一志順夫プロフィール

いっし・よりお。1962年東京生まれ。音楽・映像プロデューサー、コラムニスト。

早稲田大学政経学部政治学科卒業後、(株)CBSソニー・グループ(現・ソニーミュージックエンタテインメント)入社。 (株)EPIC/SONY、SME CAオフィス、(株)DEF STAR RECORD代表取締役社長、(株)Label Gate代表取締役社長を務め、2022年退任。

アマチュア野球を中心に50余年の観戦歴を誇る。現在は音楽プロデュース業の傍ら「週刊てりとりぃ」にて「のすたるじあ東京」、「月刊てりとりぃ」にて「12片の栞」等、連載中。