ベスト8以上の成績へ、経験、理解、そして成長に繋げる

だから、先述した実打ノックのように、一工夫した練習が多い。

紅白戦をはじめとした実戦練習をとにかく増やし、「カバーリングなどの細かな部分をひたすら教えます」と、小暮監督は試合の中で経験を積ませる。その徹底ぶりは凄まじく、「最低限の基礎体力を付ける以外は、全体練習でウエイトトレーニングをやらない」という。しかも、それがおよそ3年間程度続いているという。

「うちの場合、選手たちはまだ成長期というのが多いので、成果が少ないというのもありますし、時間の制限もあるので、出来るだけ実戦練習をやっていく中で体力を付けます。そうやって野球脳を高めることで、他校と戦う武器を作っています」

他にも、“ラインドリル”という前橋東ならではの守備練習もある。

取材日も行われたが、塁間にて行われる特別なメニューで挟殺はもちろん、中継プレーを想定したメニュー、ジャンピングスローや切り返して送球するなど、あらゆる場面を想定して練習をしていた。

ラクロスでは当たり前のメニューとのことだが、野球界では目新しい。取り組んでいる髙草木主将も「変わったやり方だ」と思うところもあるそうだが、「試合でも使うシーンが多いし、試合で出た時に対応が出来るので、本当に大事な練習です」という。チームにとって欠かせない練習であることは間違いない。

ただ髙草木主将が話すように、試合で頻繁にあるプレーばかりではない。それでも手を抜かずに準備するのには、小暮監督なりの信念がある。

「ラクロスを経験して視野が広がったからだと思うんです。野球は全員で同じ練習をやりますけど、マンネリ化しやすい。けどグラブトスとか、能力の高い選手なら簡単にできるようなプレーは、基本練習しないですよね。ただうちは違うので、練習で取り組まないとできない。だから意図的に、意識的に経験させることで、身につけられたらと思っているんです。
そのために導入した“ラインドリル”も、ラクロスっぽい内容でしたけど、『こういう動きが試合で出来たらいいな』と実戦練習で見つけたものを、マイナーチェンジで取り入れて現在に至ります」

先述した実戦練習が多いのも、「試合でのアドリブ力、対応力を磨くため」という一面も理由にあると小暮監督は話す。

とにかく経験をさせて、理解させる。そうやって前橋東は選手たちに技術、知識を習得させていく。このサイクルが上手く回ったから、「3年生は実力がなかったけど、最後の夏は勝負所で活躍する。人としての成長が、最後の夏に結果になった」と夏のベスト8を振り返った。と同時に「選手たちの成長が見られて楽しい」と小暮監督は笑みをこぼした。

その点では新チーム、2年生6人、1年生11人と、総入れ替えになり、経験値は浅い。「1年生に浸透しにくいのは仕方ない」と小暮監督は割り切っている。髙草木主将も、「3年生の時にはなかったミスが出てしまうので、まだ大変です」と苦笑い。ただ、「徐々に減っているし、声かけも増えてきた」と成長の手ごたえもある。

来る冬場、先述したように前橋東は、とにかく実戦練習を積む。ここで経験値をしっかりと詰めれば、春以降は見違えるチームになるだろう。しかしあくまで、「強いチームを倒すには、どれだけ相手より考えて野球が出来るかが、大切だと思います」と髙草木主将は根底の思考自走の精神を忘れない。

まずは先輩たちが成し遂げたベスト8へ。前橋東の再びの躍進を期待したい。