亡き恩師から学んだ野球観、そしてメッセージ

「1年生の夏から、恩師である森下(知幸)監督が就任したんです。そこから走塁に力を注ぐようになりました。必ず走塁練習から始まって、夏休み期間中も走塁がメイン。次の塁を狙うタイミングなど含めて、本当に難しくて、当初はあまり理解できていませんでした。だから練習試合でもアウトになることがありました。
だけど、成功体験が増えてくると、監督の言っていることが理解出来るようになりました。そうすると自然と段々突き詰めるようになってきて、段々楽しくなってきたんですよね」

恩師からの教えを懐かしそうに振り返る樋口監督。すると、続けて走塁の優位性を説明する。

「走塁って、攻撃にも守備にも連動する部分があることを学んだんです。
攻撃ならば、ワンバウンドでも走ってくるチームだと認識してくれたら、必然的にストレート系、高めに浮く変化球が増えてくる。そうすればバッターが打てる可能性が高まる。結果的に打線にも繋がりが生まれる。だから1打席勝負ではなく、相手投手に対して、9人の打者で戦って、9回までに相手より1点でも多く取って勝つ。終盤にちょっとでも相手が『嫌なチームだな』って警戒されることを、当時は常に考えていました。
一方で守備なら、走る隙を与えたらダメだと話しています。そのために、次の塁を狙う姿勢を生かします。特にカットプレーは油断しやすいので、走塁の時は狙うように話しています。というように、走塁で養った視点を守備に転用することで、守備力を高めることを学びました」

当時の常葉菊川はほとんどバントを使わない戦術から、「フルスイング野球」と攻撃的なチームと称された。が、樋口監督から言わせると、「走塁が基本ベースだったから、相手バッテリーの失投を増やせた」という。あくまで走塁ありきだったこと。そして「9回までに相手より1点でも多く取って勝つ」という大局観があったからこそ、2007年の全国制覇があったと振り返る。

「初戦で佐藤由規さんのいる仙台育英と大会初日に対戦することになった時は、『もう無理やな。すぐ帰るんか』みたいな感じで、『どんな抽選、引いてんねん』という雰囲気でした。
その後も、元西武の熊代(聖人)さんがいた今治西、中日の中田(翔)さんがいた大阪桐蔭。さらに元巨人の藤村(大介)さんの熊本工という学校の試合が続いたんですよね。だから戦う度に『次は無理やな』って思っていたので、当時は『あれよ、あれよと勝った』というのが正直な実感です。
けど今振り返れば、9回までに相手より1点でも多く取って勝つ。森下監督の教えがあったからだと思います」

当時のスコアを振り返っても、5試合を戦って3試合が1点差ゲーム。全国の舞台で猛者を相手に競り勝って優勝できたからこそ、「やってきたことは間違いじゃない」と走塁の重要性を再確認。そして現在、指導者として堺西で教えているのだ。

そんな樋口監督の中でもう1つ、恩師から学んだことがあるという。
「1番は『人がやっていない時にやれ』っていう言葉は覚えています。
森下監督は自主練習を大事にされる方で、全体練習が短い代わりに自主練習のときに、どれだけ自身の課題を見つけて取り組めるか。ずっとグラウンドに残って自主練習の様子を見ていましたね。
今であれば、帰宅して時間があるなら食事だったり、動画で知識を増やしたり、というのは話しています。ただ自発的に取り組んで、野球を楽しくやってほしいので、強制で縛ることはしないようにしています。そうしないと野球そのものが続きませんから」

常葉菊川での3年間は「和やかな雰囲気、自由な学校だった」と振り返りながらも、「(母校のような)指導者がなにも言わずとも自分たちで考えて行動できるチームが理想です」と語る樋口監督。秋は2回戦で大商大の前に2対5で敗戦。戦績はもちろん、理想のチームを形作るにも、やるべきは山積みだ。

阪本主将も同意見で、「走塁はある程度やりたいことが出来たと思いますが、守備はエラーから失点に繋がりました。もっと詰められる部分がある」とさらなる成長へやるべきことは明確。そのうえで「大会では自分がプレーで引っ張り、勇気づけられるプレーができれば」と意気込みを語った。

樋口監督も「競争を活性化できればチーム力は向上すると思うので、それが大会にいい結果として出たら」と春以降への意気込みを語った。

恩師・森下監督は24年1月に息を引き取った。今は空の上から活躍を楽しみに待っているだろう。恩師から学んだことを生かして、激戦区・大阪を勝ち抜けるか。堺西が、強豪私学の壁を破っていく日が来ることを楽しみにしたい。

堺西・野球部訪問①:「もう無理やな」から一転!仙台育英、大阪桐蔭らを下して日本一となった元甲子園球児が大阪の公立校で目指す野球
堺西・野球部訪問②:たった1年半で球速20キロアップ!香川の私立→大阪の公立へやってきた凄腕コーチが授けるメソッド