各地区で選抜チームを編成して、地区No.1を目指す全日本大学9ブロック対抗準硬式野球大会(以下、9ブロック大会)。選抜チームだからこそ、大会では思うような結果を残せずとも、能力の高い選手が招集されることがある。

そんな選手が全関東地区にも1人。防衛医科大学校の奥山虎太郎投手(仙台一出身)だ。全北信越選抜との試合では、9回から3番手で登板。わずか1回だけだったが、躍動感あふれるフォームから最速140キロ中盤をたたき出すストレートを軸に、無失点で試合を締めた。

普段は医学部リーグにチームは所属。同じ関東地区連盟に加盟しながら、出場する大会は異なるなど、他とは少し違った活動をしている。

だからこそ、今大会に選出されたのは「間違いなのかな」と思うところも奥山本人はあったという。しかし、「自分がどこまで通用するのかわかるので、結構楽しいです」とすっかりチームに馴染んでいるようだ。

現在、準硬式では甲子園でプレーできるチャンスがある。そのことは「モチベーションになっているので、だいぶ大きいです」と力になっている。ただ、準硬式でも甲子園でプレーできることは「全然知らなかったです」と苦笑い。実際に大会の存在を知ったのは、2023年の試合中継を偶然見つけたところからだった。

その中継を見た時に、奥山はあの夏にやり残したことを思い出し、「もう1回、自分だけでも甲子園に行こうかな」と火をつけたという。

仙台一にいた時、1年生から背番号をもらうことが出来て。何度負けても期待してくれて、最後の夏は独自大会でベスト4まで勝ち上がれました。そのときは仙台育英に負けて、『よくやったよ』って仲間が励ましてくれましたが、周りの大人の期待はわかっていたし、優勝のチャンスがあっただけに、『勝たせてあげられなくて悔しい』という思いがあったんですね。
当時の甲子園という場所は漠然としたところだったんですけど、いまは自分が甲子園に立てれば当時の仲間とか、関係者の人たちを勇気づけたり、刺激を与えたりできると思っています。それがエースとして最後の役目かなって思うんですよね」

スポーツドクターになるべく、奥山は浪人経験をしながらも進学。先輩方に誘われる形で準硬式に飛び込んだ。当初はブランクもあってか、打ち込まれることも多かった。だが、甲子園に行けるチャンスがあるとわかり、再び真剣になって野球と向き合って、そのチャンスをつかんだ。そのおかげか、「テストはきついです」と苦労はしているようだが、文武両道で過ごせている毎日は、どこか充実感があるようだった。

高校時代には達成できなかった夢を、準硬式の舞台で今度こそ叶える。奥山のように心を燃やし、再び挑戦できるところだと、準硬式が認識されれば、競技性はもちろんだが、準硬式という世界がもっと大きくなっていくに違いない。

全関東選抜は決勝進出を逃したが、今後、奥山がどんな投球を見せてくれるのか。準硬式界にとっても大事な右腕のピッチングにこれからも注目したい。