組織力で埼玉の頂点へ

まさにその組織力は「自分たちはスーパースターがいないので、浦和学院など個の能力が高いチームに勝つには大事」だと野村主将が話すように、狭山ヶ丘にとっては大事なポイントとなっている。

熊谷監督も「速球を投げられる投手がいい球を投げたら『ナイスボールだね』、強打者がいい打球を打ったら『いい打球だね』って。どんなにいい投手でも、全球完璧ではありませんし、スタメン全員が4番バッターでもない。なのでウチとしては、だから何って慌てないと思います」と、個の能力だけに依存していないようだ。

すると、前迫さんはこんなエピソードを持ちだす。

「時々、大学の2軍と試合をやらせてもらうんです。たしかに大学生だから実力は素晴らしいんですが、チームの勝利よりも個々の課題を優先して試合に臨むことのほうが多いと思うんです。一方ウチはチームとして戦っている。なので勝つことがあるんです。選手たちはチームで戦う大切さを体験しているし、理解しているんですよ。この代はチームワークのよさを活かした組織力で勝負すべきだと思っていますが、ある程度実践できていて、正直すごいなって思います」

だからこそ、チームをまとめる野村主将の役割は大きい。ただ「やっていることがぶれないし、しっかりみんなをリードしてくれる」と熊谷監督が話せば、「自然とついていってしまう」と前迫さんも語り、野村主将には指導者全員が全幅の信頼を寄せる。

その野村主将だが、「チーム発足時は、声がそれほど出ていなかった」と順調な滑り出しではなかったと振り返る。

「もちろん最初からやらなければいけないことはわかっていて、『このままじゃあやばいよ』と声をかけていました。けどチームになかなか浸透しなかった。だからアップ前から選手同士のミーティングを入れるようにしましたし、大会が近づくにつれて徐々にチームとして形が出来てきました」

夏休みは最初、ほとんど練習試合をせずに、とにかく練習をこなした。「練習は嘘をつかない」と熊谷監督の考えのもとで、厳しい練習をこなしてきた。ただそんなハードワークという大枠の中で、選手たちそれぞれが考えて取り組み、個の能力を高めた。と同時に組織力を高めてきた。その成果が、秋季大会ベスト8なのだ。

熊谷監督が話したように、狭山ケ丘のチーム作りは時間がかかっているだろう。しかし、選手個々を尊重して地道に、確実に築き上げてきたからこそ強固な土台ができた。だからこその秋季大会ベスト8という結果があるのだ。

とはいえ、先述したように熊谷監督は満足していない。野村主将も「夏の目標は甲子園出場です」とゴールは高い。そのために「自分はもちろん、チームメイトもレベルアップできるような環境を行動と言葉で示したい」とチームを引っ張る覚悟は十分だ。

埼玉は全国屈指の激戦区。勝ち上がるのはそう簡単ではない。しかし、春も結果を残せば、その実力は本物だと証明できるはずだ。狭山ケ丘、勝負の春の戦いを楽しみにしたい。