青山学院大が「大学4冠」を達成して幕を閉じた明治神宮大会。そんな青学大と並んで優勝候補の一角にあがっていたのが富士大だった。
昨年は大学選手権、明治神宮大会でともにベスト4入りを果たし、今秋のドラフトでは6人同時指名の快挙達成。満を持して乗り込んだ今大会初戦、スタメンにはドラフト指名選手4人が並んだが、創価大に0対3で敗戦。今春はリーグ戦2位に終わったこともあり、全国大会で勝利を挙げることができなかった。
なかでも注目されていたのが、オリックス1位指名の麦谷 祐介外野手(4年=大崎中央)だ。昨年は大学選手権大会で下村 海翔投手(九州国際大付=現・阪神)、明治神宮大会で常広 羽也斗投手(大分舞鶴=現・広島)と、ドラ1投手2人から本塁打を放ってその名を全国に知らしめた。期待を受け迎えたこの試合。2番・中堅手で出場したが、無情にも4打数無安打に終わり、本来の実力を出し切ることができなかった
試合後、麦谷は涙をこらえながら報道陣の前に立った。
「言葉が出ないというか。4年間やってきて何もできなかったというのが一番です」
テレビカメラの取材が終わると、壁に寄りかかり上を向いた。30秒もしないまま新聞・出版社の取材が始まると、再び淡々と試合を振り返った。
印象的だったのは9回終了後だった。
学生生活最後の試合を終えた麦谷はすぐにベンチを飛び出して挨拶の列に向かったのだ。
「相手も待っていますし、自分たちの感情で動くわけではないので。勝ち負けはつきますけど、感謝の気持ちと相手への敬意を持ってやってきたこともありますので」
周囲への感謝を述べた後、こう続けた。
「勝ちたかったですけど、後輩たちは未来があるので。僕もそうですけど『こんなところでは終わらないぞ』という気持ちがあったので、すぐにベンチを出ました」
悔しさを殺しながらも冷静に――。麦谷は人一倍深く礼をしてグラウンドを去った。
筆者はこの日の取材が初対面だったが、グラウンド内外で見せる姿に魅了された。
麦谷は健大高崎で野球打ち込んだが、高校2年時に大崎中央に編入した経緯がある。そんなことからドラフト前にはSNSで良からぬ噂が流れ、一部では素行を問題視する書き込みも目にした。しかし、後に麦谷が人間関係に悩み転校していたことが報じられると、その風向きが変わった。
取材後、麦谷は報道陣に向かって「ありがとうございます」と挨拶。立ち去る姿に思わず「かっこいいですね」と言葉が漏れた。
「ファンの皆さんにも『オリックスに来てよかった』と言ってもらえるような選手になりたいです」
プロでも長きに渡って愛される選手になるのではないか。そう感じさせる麦谷の姿だった。