秋の日本一に立った横浜。そのライバルとなる東海大相模。2023年に全国制覇を成し遂げた慶応。強豪と数えられる学校を上げたらキリがないほど、実力あるチームがそろい踏みの神奈川県。上位進出すら容易ではない地区で、年々力を付けて安定した実力を発揮し続けているのが、立花学園だ。
第2フェーズのキーワードは「心の耐力」
過去5年間、立花学園が夏の神奈川大会で残してきた実績は、以下の通り。2022年のベスト4進出をはじめ、激戦区・神奈川でも安定した実績を残しているのが十分わかる。
2020年:準々決勝(ベスト8)
2021年:5回戦(ベスト16)
2022年:準決勝(ベスト4)
2023年:4回戦(ベスト32)
2024年:5回戦(ベスト16)
立花学園というと、当時珍しかったラプソードといった最新機器による計測。さらにはドローンを飛ばしてグラウンドを俯瞰した映像を撮影するなど、他の学校ではやってこなかったような取り組みを実践する。最先端を採用して、結果を残す強豪校という印象が強い人もいるだろう。
ただ取材日、立花学園のグラウンドに広がっていたのは真逆の光景。内野2か所に分かれて、ひたすらノックを受ける。強い打球を左右に飛ばして、選手たちはがむしゃらに追いかける泥臭さが、グラウンドにあった。
自らノックを打って、選手たちとともに汗を流す指揮官・志賀正啓監督は、「第2フェーズというか、新しい何かを盛り込みながら選手に刺激を与えてというところはすごく考えています」と話す。これまでのチームを土台にして、新しい立花学園を目指しているというわけだ。
それを象徴するような横断幕が掲げられた。そこには真っ赤な字で「心の耐力」と書かれていた。
「心の限界を超えていく。自分が思っている以上に限界が先にあると思って、壁を超えていくことが現在のテーマなんです。自分の中で本気だと思っても、心のリミッターが先にきているだけで、体は意外に耐えられるケースがあると思います。だから案外、思っている以上に本気は出せると思うんです。
実際、今年の3年生は冬場で目標数値をクリアして、技術・体力は県内の上位校に近づきました。でも、思わぬことが試合で起きた時に頭が真っ白になって、大量失点しちゃうケースが多かった。それは多分、心の部分が要因だと思ったので、『心の耐力を鍛えよう』って取り組んだんです。それが今も財産として残っているので、今年もテーマにしているんです」
そう語ると、志賀監督は近年のチームの戦いぶりを振り返った。
「ベスト4に勝ち上がった2022年世代は、歴代でも本当に劣っている部分が多かった。だから指導者からの注文も多くなってしまい、主将、副主将は負担が多かったと思います。けど彼らが中心になって、心のつながりを持てる世代だった。『簡単に負けてなるものか』という気持ちが強かったと思います。だから夏は初戦から逆転勝ちでベスト4までたどり着いた。
一方で、2023年世代は、ベスト4経験者が多くて実力があった。だから春の県大会も8強まで勝ち上がりましたし、オープン戦もそれほど負けなかった。けど、夏は4回戦で負けた。思わぬことへの対応力が低かったんですよね。それもあったから、今年の3年生から厳しい練習をやるようにしたんです」
主将・田畑智大内野手(2年)たちが入学してからスタートしたことで、最初は慣れない練習に「反動が大きかった」という。しかし、「本気を知るって難しい」ということも踏まえて、志賀監督は取材日には厳しいノックを打ち、選手たちは必死に食らついて、心を鍛えさせている。
この指導に田畑主将は、前チームから出場している目線から「春に武相に負けたのは、勝負所のプレーですし、神奈川を制するチームは打席でしっかり仕事を果たせる土壇場の強さを感じた」とライバルたちの強さを話す。だから余計に「心の耐力という言葉は普段から良く使っていて、チームに浸透している」と語り、新チーム発足時から全員が勝負所での気持ちを意識していたそうだ。
だから、「うまく活用したい人は使って、数字と向き合っている人はいる」と田畑主将は話すが、「1年生、そしてこの前の夏に負けて『このままじゃあダメだ。これまでと同じことをやっても、同じ結果になる』と思って、リスクはありますけど、これまで以上の結果を狙って試行錯誤しています」と厳しい練習には納得して取り組んでいるという。