音楽プロデューサーとしてCHEMISTRYやいきものがかりの結成、デビューなどで手腕を発揮する一方で、半世紀を超えるアマチュア野球観戦により野球の目利きでもある一志順夫。連載コラム「白球交差点」は、彼独自のエンタメ視点で過去と現在の野球シーンとその時代を縦横無尽に活写していきます。
田中将大の自由契約に衝撃。来シーズンもマウンドでの勇姿を見たい
早いものでもう師走。今回は時節柄も考慮し、2024私的球界10大ニュースを選んで今年を振り返ってみたい。
1. DeNAベイスターズ、下剋上日本一
今年最もエキサイティングだったのはDeNAベイスターズ、まさかの日本シリーズ制覇。思えば開幕戦のドラフト1位ルーキー・度会 隆輝のホームランから始まり、交流戦後オールスター挟んでのお約束の連敗街道、終盤は広島の大失速に助けられなんとかCS圏内に滑り込んでからの大どんでん返し。 この一連の展開はドラマティックでもあり、最高のエンタテインメントを提供してくれた。これは三浦 大輔監督の采配のみならず、親会社-フロント-現場が三位一体となり、中長期的視野でチーム作りをしてきた成果に他ならない。来季はリーグ優勝を実現して真の日本一を目指してほしい。
2. ドラフト指名悲喜こもごも
△健大高崎・箱山 遥人捕手
筆者の指名予想に大きな破綻はなかったが、健大高崎・箱山 遥人の指名漏れとDeNAの竹田 祐の1位指名は意想外だった。箱山もそうだが上位指名の噂もあった社会人NTT東日本の野口 泰司も指名漏れしたことを考えると入団後の捕手の育成はよほど大変なのか。バッティング、インサイドワーク、肩の三拍子がそれぞれかなりのレベルに揃わないとプロの世界は厳しいのかもしれない。
竹田は履正社、明治大、三菱重工Westを経て、 3度目の正直でのプロ入り。完成度の高いまとまったピッチャーだと思うが1位の一本釣りとは予想できなかった。明治大先輩である佐野 恵太、伊勢 大夢、入江 大生、高校時代からのライバル・徳山 壮磨(大阪桐蔭ー早稲田大)とチームメイトになったのも因縁深い。慶応義塾大の清原Jr.(正吾)に関しては直前情報だと指名可能性あり、だったが蓋を開けてみると全球団スルー。今秋東京六大学で打った3本塁打を目の当たりにすると、あのスター性とオーラは余人に代え難い魅力に溢れ、野球をやめるという選択は実にもったいないと実感した次第。今後の進路は一般企業に就職という話だが、プロ入りせず一般企業に進んだ大先輩・志村 亮のケースもあり、社会人としても立派に大成してくれることを願う。
3. 西武の歴史的低迷
ルーキー・武内 夏暉の二桁勝利、今井 達也の奪三振王というトピックスはあったが、絶望的な貧打でダントツの最下位。前身となる西鉄での黒い霧事件に端を発する暗黒時代を想起させる惨状は、やはりここ数年のフロントの失態に起因しているのは間違いない。タラレバだが浅村 栄斗(現・楽天)、森 友哉(現・オリックス)、山川 穂高(現・ソフトバンク)が残留していたならこんな事態にはなっていなかったであろう。今オフもいまだに目立った補強に着手していない球団の消極姿勢には大いなる疑問をもつ。西口 文也新監督には酷だが、来季もAクラス浮上は期待できそうにない。
4. 田中将大の自由契約
△田中 将大投手(2023年撮影)
楽天にとって最大の功労者であったマー君ではあるが、近年の劣化と衰えには抗えず、球団を去ることとなった。コスパの悪さは確かにいかんともし難く、球団側の判断にも一定の理解はできる。しかし、200勝まであと3勝に迫ったこのタイミングでの通達は本人としても納得がいかないし、プライドが許さないのも頷ける。
DeNAとの比較でいえば、今オフの監督人事の迷走一つとってみても、楽天は親会社とフロント、現場のコミュニケーションがギクシャクしていて、換言すれば三木谷 浩史社長-石井 一久GM-監督の指揮系統に縺れがあり、チーム運営そのものが機能不全に陥っているような気がしてならない。マー君はそんな混乱ぶりに嫌気がさしたのではないか?と邪推したくもなる。
思えば、2005年明治神宮大会の雨中での準決勝、早稲田実・斎藤 佑樹との息詰まる投手戦をバックネット裏から観て、高校生離れしたスライダーの軌道とキレに衝撃を受けて以来、マー君は常に気になる存在であった。メジャーでの勲章を引っさげて2015年に日本球界に凱旋復帰したものの、怪我に泣かされお荷物扱いにされた松坂 大輔の境遇に似ているが、松坂は最後はわずか年俸2000万円で中日に移籍、2018年に6勝を挙げカムバック賞を受賞して見事返り咲きを果たした。マー君も晩節を汚すことなく、スッキリした形で来シーズン以降もマウンドに仁王立ちしている姿を見てみたいものだ。