フォーム改善で球速がメキメキ伸びた!
話題を野球に戻そう。中学時代に実績のない吉留だったが、近大高専・重阪俊英監督は入学当初から彼の素材を高く評価していた。
「入学当初からボールの強さはありました。球速以上にズドンと来るような球質でしたので、上と下のバランスをしっかり整えながら過ごしていけば、球速は上がって来るかなと思っていました」
実際、入学してから吉留の球速はどんどん上がっていく。入学後に行ったトレーニングの成果もあり、1年秋の県大会では143キロをマークした。
だが、当時もまだ制球難に苦しんでおり、「まだまだ自分の中では球速しか取り柄がなかったので、143キロが出た時は嬉しかったですけど、納得はいってなかったです」と本人の理想には届いていなかった。
2年生になると、最速は147キロに更新。この時点でもまだコントロールに不安を抱えていたが、徐々に成長を遂げていた。
制球力を改善するために行ったのは、フォーム改良だ。インステップと前のめりで投げてしまう癖があったため、胸を張る投げ方に変え、ブルペンではプレートの前にラインを引くことで、インステップを矯正することを意識づけて投げるようにした。
すると、3月の練習試合では150キロを計測。さらに翌月の県大会では155キロをマークして知名度が急上昇したのだった。
試合には負けてしまったが、「球の強さは自信を持って言えることだなと思いました」と自信を深めることができた。
課題だったコントロールも、春季大会が終わった頃にはようやく安定。「球速にはこだわらずにコントロールを仕上げにかかって夏の大会に挑みたいです」とダッシュ系のトレーニングやウエイトトレーニングで瞬発力を鍛えて、コントロールの向上を図っている。それでも練習試合では150キロ前後が出ており、最速の更新こそしていないもののスピードボールは健在だ。
注目の進路について公表!
無名の存在から世代トップクラスの速球を投げるまでになった吉留。彼のここまでの成長について、重阪監督はこう語る。
「彼自身は自信がまだない状態からスタートして、辛い経験も糧にして、ここまで進んできてくれています。『強くなりたい、上手くなりたい』という向上心をしっかり持って野球に取り組んでいる結果が、今の姿になっているのかなと思いますし、私自身もやっぱり何とかしてあげたいと感じます。まだまだ覚えることもたくさんあろうかと思いますけど、まだまだ伸びしろがあるんじゃないかなと期待を持てる選手です」
さて、注目されるのが今後の進路だ。5年制である近大高専の選手はほとんどがそのまま4年生に進級し、一部が4年制大学に編入する。ただ、2009年には鬼屋敷 正人捕手が3年時に巨人からドラフト2位指名を受けてプロ入りしている。
そうした先例もあるため、プロ志望届の提出は可能だが……。
「大学進学をしようと思っています」
吉留はプロ志望届を提出しない方針を明かしてくれた。
「自分の中では(プロ志望届を)出したいと思っている気持ちもあるんですけど、工業高等専門の学校ですし、自分もまだ力不足というところがあるので、大学でもう一度磨き直してからにしようかなと思っています」
重阪監督も「小さく収まるのではなくて、大きく育ってほしい」と吉留には期待をかけており、4年間大学で時間をかけてプロを目指す方針は賢明かもしれない。
目標とする投手は巨人の大勢。スリークォーター気味のフォームから剛速球を投げる姿は確かに似通っている。YouTubeで大勢のトレーニング動画を見て、勉強していることも多いそうだ。
高校野球最後の夏に向けて、「自分が納得いくようなピッチングを心掛けて、みんなを良い方向に導けるように試合作りをやっていきたいと思います」と意気込む吉留。自慢の剛速球でチームを勝利に導くことができるだろうか。