オフシーズンになると、NPB選手はあらゆる練習法でシーズンに向けて準備をする姿が報じられる。思いもつかぬ特殊な練習や護摩行といった修行に近いもの。さらには他競技の動きを取り入れるなど、非常に様々だ。

そうした特殊なトレーニングの1つとして、今回のセンバツに初出場となる新鋭・エナジックスポーツなどが採用しているというベースボールピラティスが徐々に注目されている。

野球とピラティスは繋がっている?

野球界に限らず、ピラティスは耳にしたことがあるだろう。主に女性が取り組んでいる印象の強いピラティスを野球に落とし込んだものがベースボールピラティスだが、なぜその2つが結びつくのか。

沖縄を中心に、中学・高校球児へベースボールピラティスを指導しているという上原綾乃さんによると、「野球は体をねじる動作が多いじゃないですか」と語ったうえで、続けて野球とピラティスの相性を説明する。

「例えばバッティングであれば、トップを作るときにねじる動作をすると思いますが、野球は手先だけでプレーをするわけではなく複雑に体を動かしたり体幹を生かして様々な動きをスイングの中では求められます。身体の中心を使ってプレーする。3Dのような動きを野球は求められるので、骨盤の使い方だったり、もっと言えば背骨1つずつをコントロールしたり。体を正しく使う感覚が必要になってくるところはピラティスに通じるものがあるので、相性が良いものだと気付いて確立しました」

ピラティスはヨガやストレッチとは全く異なるものになるわけだが、それはこうした背景からも、違いはハッキリしているようだ。

「ヨガはしっかりと呼吸も意識して取り組むので副交感神経にアプローチされます。ストレッチの要素が強く、柔軟性がメインでありイメージは体のメンテナンス、リカバリーです。その反面ピラティスは柔軟性に加えて、インナーマッスルにもアプローチをかけるので交感神経に刺激を与えます。その特性から、ウォームアップでピラティスをやってもらうようにしています。加えて骨格を正しい位置に戻してから体の使い方を覚えますので、ケガ防止も期待できるのがピラティスなんです」

実際、上原さんの指導模様を見ていると複雑な動きをしている様子が度々見られた。それらはすべて「筋肉を伸ばすのでストレッチはもちろんですが、関節を内外旋させることで、骨にもアプローチをしています」という。

こうした複雑な動きをするから、自らの体を正しい感覚で整え、そして使える。それに付随して必要になってくるインナーマッスルが自然と鍛えられるという仕組みなのだ。

近年の問題から見えるピラティスの重要性

ピラティスが野球に対して大きな効果があることが徐々に見えてきたが、特に近年は必要性が増しているようだ。

「私が指導している中で、姿勢の悪い中高生が多いと感じます。やはりスマートフォンなどの影響で巻き肩になりがちなんです。そうすると巻き肩ではパフォーマンスも下がってしまうんです。

骨格の問題もありますが、どうしても選手は体が硬すぎることが多いですね。なので筋肉は常に張りが残ったままでコンディションは良くないし、疲労回復が十分に出来ていない。だからピラティスでクールダウンも含めて、体の使い方を覚えて欲しいと思います」

特にケガ防止については、上原さんは過去に指導してきた実績を踏まえてもう一度重要性を語る。

「緊張と脱力のバランスが大事だと思うんです。それが出来ないとスライディングの時に衝撃を受けたり、ダイビングキャッチをしてから背中を丸めてショックを和らげたりすることが出来ないんですよね。
ほかにもトレーニングの影響で、アウターマッスルが強すぎて筋肉が張りすぎてしまった、その結果張りが強くて痛みを訴える選手が過去にはいました。そういった選手にも脱力をしてあげたことで緩和が出来たので、そうしたところでもケガ防止にピラティスは効果があります」

正しい姿勢、動きを獲得しよう!

こうしたあらゆる効果があるから、上原さんの指導を受けた選手からは「動きが全然違う。連動性というか、動きが滑らかになるので反応がいい」という声が出ているようで、その時はどこか少し喜んでいるようにも見えた。

それゆえに、こんなメッセージを残す。
「いろんな人がやっていいと思います。姿勢が悪くなっている選手が多いので、ピラティスをやれば姿勢が整うことで、血流がアップして代謝がよくなる。そうすれば、成長期の選手たちは身長も伸びると思いますので、大きな効果があると思います」

とはいえ、ベースボールピラティスの一番の効果は正しい姿勢と動きの修正。そのうえで必要なインナーマッスルの強化、柔軟性を高めることで強くしなやかなプレーを実現させること。と同時に考えながら取り組むことで動きを学習させて、思い通りに体を動かすことを実現させている。それがベースボールピラティスである。

「どのトレーニングも必要だと思うので、段階としてピラティスでインナーマッスルと骨を整える。それからアウターマッスルの強化に繋げる事が大事だと感じています」と最後に上原さんは語った。ヨガやストレッチとの違いを体感する意味でも、一度体験して効果を感じ取ってもらいたい。