「天才という簡単な言葉では表せない、イチローにはもっと別の言葉が必要だよね。天才以上であり、彼を表せる言葉がない」

 嬉しそうに笑いながら語ってくれたのは愛工大名電の倉野光生監督である。倉野監督は、イチローが愛工大名電に在籍時はコーチとして指導していた。

「プロ野球で成功するとは思わんかったし、ましてメジャーリーグで成功するとは思わんかった」

 それが倉野監督の当時イチローを指導した時の印象である。そして今もイチローは恩師の予想を良い意味で覆し続けているのである。

 イチローのMLB殿堂入りが決まった。MLB通算3000安打500盗塁。MLB史上2人目の快挙である。もちろん日本人選手としては初の偉業になる。そんな唯一無二のスーパースターを高校時代の恩師はどう見ているのだろうか。倉野監督に話を聞いた。

 2024年11月18日、イチローは母校を電撃訪問した。イチローが後輩とともにグランドに入り、体を動かすのを見ながら、倉野監督はイチローが本当に51歳なのか目を疑い、何度も本人に確認したと話してくれた。

「やっぱり人間は訓練するとあそこまでなるんやね。彼の一挙手一投足を見た後に現役選手を見ると、高校生と小学校低学年ぐらいの差を感じました」

 もちろん現役選手が下手な訳では無い。

「うちの選手も上手だし、練習見てても上達したな」と感じている。ただイチローが別次元なのである。そんな非現実感をいとも簡単に見せてしまうのがイチローなのだろう。

「結局は積み上げてるというか、本当にありきたりの言葉でいくと、進化と言ってるけど、イチローはそんな簡単な言葉では表せんのじゃないかな。成長とか進化って言うけど、いや、そんな簡単な言葉じゃ。もっと彼には違う言葉が必要だよね…」

 数々の記録を打ち立ててきたイチロー、それは進化ではなく別の言葉が必要になる。イチローだけに与えられる唯一無二の言葉。進化、そして天才という表現もイチローに合わない。イチローはイチローなのである。

「現役を引退してからどういう風になるかっていうことも皆目検討つついてない中で今イチローがあるから。全く予測したものとは違うし、今まで見たことないスタイルですね」

“過去を消す”男

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