プロの感覚にモノづくりの答えがあることを信じて

茂木さんはこれまで数多くのグラブの企画開発を担ってきたが、「今回は最終的に数字を出す。そして実証する必要もあって結構大変だった」と苦笑いを浮かべる。販売に至るまでに、数多くの障壁があったのだろう。

そんなスピードレボの始まりは、契約選手たちからの声だったという。

「ミズノの契約選手たちに定期的にヒアリングをするんですが、ピッチャーからはグラブに対して『硬さが欲しい』というコメントが非常に多いんですね。その理由は選手たちによって様々なんですが、開発担当と一緒に選手のヒアリングをしている中で、『硬さにヒントがありそう』という感覚を得て、2023年ごろから企画開発が始まりました」

以前より選手からは「硬さ」を求める声が出ていたという。ただ商品化にはなかなか結び付かなかったとのこと。しかし、「以前、投手向けのスパイク、スピードレボスパイクが発売された際に、評価を受けたこともあって、球速アップにつながるところにプレーヤーが価値を感じている」ことに気づいた茂木さんは、プロの声を実現する意味でも、まずは契約選手たちへ入念なヒアリングから始めた。

「プロの感覚にモノづくりの答えがある、と感じたので、選手たちが求める硬さをお客さんに届けられるように進めました。ただ契約選手は、クラフトマンが1個ずつ作るので、素材となる皮革選びから硬さを表現できますが、量産するとなるとそうはいかない。
けど、どうすれば届けられるか。クラフトマンに意見を伝えて、一緒に模索する中で、はみ出しをはじめとした構造で硬さを実現することになりました」

もちろん議論の中では、皮革や芯材といった素材で硬さを表現することも考えた。ただ、「個々の仕上がりや型づけでばらつきが出る」ことを懸念。出来る限り多くのお客さんに球速アップに繋げられるように、どのグラブでも硬さを表現することも踏まえて、構造で硬さを実現させた。

ただ「最終構造に至るまでは複数パターンを試作して、そこから何が一番いいのか絞りました」と、試行錯誤は重ねた模様。アイディア段階だけで5パターン前後が出ており、そのなかで3パターンほど絞った段階で、契約選手たちへヒアリング等をして、最終的には先述したはみだしや平裏の構造、手首周りのレースの通し方といった構造の工夫で硬さを実現させた。

クラフトマンの協力、さらには入念な契約選手へのヒアリングのおかげもあってか、ある程度、形が仕上がった段階で再度ヒアリングした時は、「ほとんど問題がなく、評価が高くて、『使ってみたい』という声もいただけた」とトータルで考えれば順調に進んだという。

ミズノだから出来たグラブを「とにかく球速を伸ばしたい投手に」

ただ課題は別にあった。

「今回は『球速が上がる』というのがコンセプトでしたので、球速が上がるといえないグラブは、スピードレボではない。この条件があったことは難しかったですね。グラブは数値化が難しいので、どうやって証明するか。これまでにはない経験で難しかったです」

きっちりと数字で結果を出す。その証明をするところで、ミズノには心強い味方がいた。大阪本社に隣接されている開発施設・ミズノエンジンの存在である。

「ミズノエンジンで開発をやりきることも大切にしていたので、それでいうとモーションキャプチャーで撮影して細かな動きや変化をチェックし、数字が出るように微調整も加えてブラッシュアップ出来たことで、根拠をもってグラブをお客さんに届けられる。そこを最後まで突き詰められたのは、ミズノエンジンがあるからですし、もっと言えば契約選手やクラフトマンの協力があったから。ミズノだからスピードレボが実現したと思います」

こうした契約選手から共感を得た硬さ、それがパフォーマンスにつながる。ミズノの技術力と人財が結集したのがスピードレボだ。この春から店頭に並ぶにあたり、茂木さんはもちろん楽しみにしているが、実は「パッと見たときにカッコいいと思える、一発で分かるデザインにしたいと思っていたので、すぐに分かると思います」と選手たちの反応を楽しみにしているようだった。

そのうえで、茂木さんは選手たちにこんなコメントを残す。

「とにかく球速を伸ばしたい投手は、必ず一度は手に取ってほしいです。これまでの知識を反映していますので、それを体感してもらって、試合で使ってもらえたらと思っています」

始まって2年で商品化されたスピードレボ。契約選手たちもうなったグラブ、ぜひ一度見かけたときは手に取ってはどうだろうか。
※1 引手側の握力が40㎏以上の被験者に限る。対象は青年の野球投手。球速125.28㎞/hから開発品により125.62㎞/hに向上した場合の想定による。当社従来品比較。環境や状況により効果や感じ方には個人差があります。