滋賀学園滋賀短大付大阪桐蔭履正社の「大阪2強」を下してセンバツ出場を果たすなど、注目を集めている滋賀県の高校野球。その中で全国的にはまだ無名ながらもプロのスカウトが視察に訪れている投手がいる。それが瀬田工岡本 一徹(2年)だ。

 下手投げから最速133キロのストレートと斜めに浮き上がるようなスライダーを駆使する右腕。独特の軌道を描くため、初見で攻略することはかなり難しい投手だ。

 その岡本だが、高校入学して間もない頃に母が逝去。小椋 和也監督の奥さんに弁当を作ってもらいながら野球を続けている。様々な想いを背負い、今秋のドラフト指名を目指す岡本に迫った。

 滋賀県大津市出身の岡本は、小学2年生の時に長等スポーツ少年団で野球を始め、中学時代は軟式クラブチームの大津Zクラブでプレー。「瞬発力がある」と小椋監督に見込まれ、誘いを受けた。

 入学する前年に瀬田工は秋の近畿大会に出場。「甲子園に一番近い公立校なんじゃないかと思いました」と進学を決めた。

 しかし、1年生の6月に母の一美さんが病気により急死。54歳の若さだった。

 岡本は男4人兄弟の3番目。兄2人は既に独立していたが、父1人で自分と弟を育ててもらうことに不安があり、「僕だけが野球して良いのかなと気持ちはありました」と野球をやめることも頭をよぎった。それでも父と兄から「好きなことをやったら良い」と助言を受けて、野球を続けることを決意する。

 岡本を将来の中心選手として期待していた小椋監督は食事面を心配していた。そこで奥さんに相談すると、岡本の弁当を作ることを承諾してくれたという。今では毎朝、職員室に行って、小椋監督から弁当を手渡されることが日課になっている。

監督の奥さん手作りの弁当を手に笑顔を見せる岡本投手(左から3番目)とチームメイト【写真提供=瀬田工野球部】

 お気に入りのおかずは卵焼き。「中にかまぼことかが入っていて、タンパク質も摂れますし、とても美味しいです」とはにかむ。「毎日、夜に下準備をして朝に調理をしています。朝早く出発する遠征の日は、4時過ぎからお弁当を作ってくれるので、本当に感謝の気持ちしかないですね」と野球に対する熱意はさらに高まった。

 夕食は基本的に父が作ってくれているが、父が忙しい時は弟と分担して夕食を作っている。練習帰りにスーパーで買い物をすることもあるそうだ。

「夜に寝るのが遅くなったり、食器も自分で洗うようになったので、改めて母の大変さに気づけたという面では良かったんじゃないかなとは思っています」

 男3人のタフな生活を送ることで、「自分がプロに行って、家族を楽にさせたい」と強い想いが芽生えた。「元々ストイックに頑張れる子。あの時から目標がぶれていないです」と小椋監督も取り組む姿勢を高く評価している。