カメラ女子の“被害妄想”
そんなSさんは一連のNPBが設けた規制を肯定的に受け止めている。
「本人を侵害しないレベルの写真のお渡しだったら全然いいよっていうことだから(編集部注:営利目的でない家族や友人への写真・映像の公開・譲渡は可)、撮影してお金を稼いでいる一部の人が苦労するだけで、普通に観戦する人は問題じゃないって私は思っているんです」
一方で実際、以前に比べてプロ野球観戦でのマナーは悪化しているという。NPBの2軍球場はファンとの距離がより近いこともあり、マナーを逸脱する観客も少なくない。
「“推し活”って言葉の影響はあるかな、って思います。野球選手をより神格化、アイドル視して、追っかけること自体を楽しんでいるファンが以前より増えました。野球人気という意味では喜ばしいですし、どんな応援の仕方でも良いと思います。ただ、独占欲が強く出てしまうと問題だと感じています。『あの子を私が一番応援してる』みたいな感情が、言わずとも心のどこかにあると、マナーにも繋がってきちゃいますよね」
そんな“暴走する”女性ファンに対する厳しい声、眉をひそめる野球ファンは少なくない。SNS上では“カメラ女子”に対する批判の声も多い。こうした実態にSさんは持論を展開する。
「外側で見ている人よりも、カメラ女子自身が抱いている“過剰な不安”ではないかと思います。考えすぎといいますか。もし批判を浴びている人がいるならば、その人自身のSNSとの関わり方を見直すと良いかもしれません。『今日はよく撮れた』とアップする人もいれば、『選手と交流できたらいいな』と考えて写真をアップする人も人がいるので…。もちろん、どんな目的であろうと自由ですが、考えの違いからカメラ女子に対する“偏見”や“亀裂”が生まれているのかなと思います。カメラ女子同士で批判をしあったり、足の引っ張り合いをしているケースも時々見かけますが、互いを過度に気にせず尊重し、共存することが理想です。
どうしても野球をやっているのは男性ですし、撮っている女性たちとの間で、人間関係のもつれに発展してしまったり……ということはあるかもしれません。でもおそらく選手の保護者に聞けば『撮ってくれてありがたい』と思っているはず」
事前の撮影申請を行う東都リーグ
いまや学生野球の球場でも<写真撮影・配信禁止>の張り紙を目にすることも多くなってきた。学生野球界における規制の背景には選手の肖像権の保護や、球児に批判が集まる事例を防ぐことが目的とされているが、一部ファンのマナーの悪さも原因のひとつだ。Sさんは言う。
「例えば東京六大学野球などでは専門のスタッフがいるので、あまりにマナーが悪い人たちには声をかけたりできるかもしれません。でもほかのリーグは違います。各チームのマネージャーがわざわざ注意しに行くこともあるんです。『そんなことに労力をかけるなら、もう全面的に禁止にしちゃえば手っ取り早い』という考えもあるんじゃないかと思うんです」
実際、東都大学野球では2022年春から撮影の対策を打った。事前に連盟へ撮影の申請を行い、許可証を配布する制度を設けたのだ。
「東都リーグの体制が一番いいですよね。撮影パスを配布して名前、連絡先を控えて、きちんと監視ができる環境をつくる。パスを出したうえで『こういうことしたらパス剥奪しますよ』『こういうことは注意しに行きますよ』とか、ルールをつくれば悪いことしないだろうなと感じます。管理体制がしっかりできれば、マナーの悪い人たちは淘汰されると思うんです」
今後、野球界の撮影に対する規制はさらに強まっていくだろう。最後にSさんはこう持論を展開する。
「『撮影できないなら球場に行かない』っていう人は絶対出てくるかと思います。でも私は球場に行きたいです。やっぱり『頑張っている子たちを見たいな』って私自身は思います」
誰もが心地よく野球を観戦できる環境ができることを望む。