「久保さんがすごいのは、その投手のどこが崩れているのかが瞬時に分かること。そして、修正するための適切なドリルを提示できるところです。しかも持っているドリルの数も豊富です」

 そう語るのは、元阪神の福永春吾氏(現台鋼ホークスコーチ)。復活が待たれる巨人・田中 将大投手(駒大苫小牧)の再生を託されている久保康生コーチの教え子の一人である。

現役時代、通算71勝30セーブを挙げた久保コーチは、98年の近鉄で指導者としてのキャリアをスタートさせた。その後、阪神、ソフトバンク、社会人の大和高田クラブ、巨人を渡り歩き、大塚晶文(横芝敬愛)、メッセンジャー、大竹耕太郎(済々黌)など多くの投手の素質を開花させ、24年には菅野智之投手(東海大相模)の復活に一役買った。

 久保コーチの投手を再生、急成長させる手腕は”魔改造”と称する声が多い。

福永氏もルーキーだった2017年に、当時、阪神の二軍投手チーフコーチだった久保コーチから“魔改造”を施された。

「久保さんが田中投手に行っているマウンドの傾斜を逆に使って投げるネットスローは僕にもやらせてもらいました」

 福永氏は阪神1年目、怪我によって、投球フォームを崩してしまった。

「右手首の怪我、右足の捻挫でリハビリをしていました。久保さんは個別練習でネットスローに付き合ってもらうなど、さまざまな指導をしてくれました。特に印象に残っているのは、『踏み出し足(左足)をついたあとに、骨盤をしっかりと回旋させていく動きが大事だ』という言葉ですね。

 私は徳島インディゴソックス時代、最速152キロだったのですが、阪神に入ってから150キロを計測しない日々が続いていました。しかし、久保さんの投球ドリルを終えてからは150キロ以上を出し続けることができるようになりました」

 田中将大も、2023年オフの右ヒジ手術の影響で投球フォームを崩してしまった可能性が高い。

「投手が強いボールを投げるには縦回転の動きが必要になります。マウンドの傾斜をうまく使いながら投げるには、縦に動く感じがいいんですね。横振りになってしまうと、マウンドの傾斜もうまく使えず、体の回転もしっかりと支えられないので、強いボールが投げられません。

肩やヒジを怪我してしまうと、どうしても体が腕をかばってしまって、知らず知らずのうちに体の動きが崩れてしまう事が多い。元に戻すには投球ドリルを使うんです。久保さんのように瞬時に問題点が分かって、引き出しが豊富な人がいると投手が復活できる可能性は広がります。

また、田中投手のような超一流投手の場合、感覚が非常に優れているので、修正能力も長けているかなと思います」

 久保コーチの指導は今でも福永氏の大きな財産になっている。

「技術的な指導が素晴らしかったですが、『個別練習は大事だよ』と語ってくれたことが今に生きています。指導者となった今では台湾の若手投手たちに久保さんと同じ話をしています。『個別練習で自分の時間をどう使って技術をどう磨くのか、どういう選手を目指したいのか。その上でブルペンで投げることが大事だよ』と」

 昨年、巨人はリーグ1位のチーム防御率2.49を記録した。15勝を挙げ、優勝の立役者となった菅野は抜けたが、久保コーチの手腕によって田中が完全復活し、若手投手も伸びれば、今年も投手王国は健在だろう。