1月24日、センバツ大会出場校32校が発表され、いよいよ高校野球も春を迎えようとしている。一方、センバツ切符を逃した学校は、昨秋の悔しさをバネに日々練習に励んでいる。「一冬越えれば化ける」とも言われるこの期間。春、夏でリベンジに燃える球児たちは、どんな成長を遂げているのか。全国各地で巻き返しを誓う学校の「今」を指揮官の言葉からひも解く。

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「甲子園は素晴らしい場所です。しかし甲子園のために自分を犠牲にすることはあってはならないと思っています。野球を通じていろいろ学んでもらいたいんです。だれでも本気になってやれば、人生はどういう風にも変えられると思っていますので」

 御殿場西で指揮官を務める竹内 健人監督は、選手に対する思いを言葉に込める。

 2007年に常葉菊川(現常葉大菊川)をセンバツ制覇に導いた竹内監督の恩師である森下知幸前監督が2024年に亡くなったことをうけて、就任した竹内監督。それから1年が経過した

「あっという間でもあり、まだ1年なのかという気持ちもあり……。その両方ですね。(森下監督が)昨年夏に勇退されることを2、3年前から聞いていたので、しっかり準備をしていました。チーム方針で困ることはありませんでしたが、やるべきことをとにかく必死に取り組んできた1年でしたので、あっという間でしたし、まだ1年なのかと思いましたね。

 そういうときこそ、『こういう時に森下先生ならば、どう考えるだろうか』と考え、森下先生が目指してきた目標のその先、今までにない野球を基準にしてチームを作るように心がけています」

 竹内監督のいう「今までにない野球」の一つがチームの公式インスタグラムだ。そこには、練習の模様やチーム方針が包み隠さず投稿されている。なかには野球とは関連しないビジネスマンの話まで見ることができる。

 ここには「僕が野球一筋の人生でしたし、どうしてもそうなりがちだと思うので、違った視点も取り入れて、新しい高校野球をデザインできたらと思っています」という竹内監督の願いが詰まっている。竹内監督は言う。

「甲子園を目指すのは素晴らしいですけど、そこに固執すると、勝つことを優先して選手育成が疎かになってしまう。次のステージで活躍したい、そういう意思を持った選手が集まったチームで、どうやって勝利につなげるか。そこが僕の仕事だと思って、成長にフォーカスをあてています。

 目標を立てるのも、上でやりたい人はどこを目標に、どれぐらい成長しないといけないのか。どこまで延ばさないといけないか。そこから逆算して、必要なメニュー、方針を決めて練習をする。それが達成できたらおのずと甲子園も近づくのではないでしょうか。2つの軸を目標に持つ感覚で、指導をしています」

 そうした指導のもと、現チームは県大会3回戦進出。夏の甲子園に出場した掛川西の前に3対6と敗戦したが、チーム発足時のことを振り返ると、非常に伸びた世代だった。

「3年生は『御殿場西=フルスイング野球』というインパクトを残す野球を見せ、亜細亜大拓殖大といった多くの選手が上のステージで継続するほど、1つの軸は成功した世代でした。その世代と比較すると、心身ともに課題があるのが現チームだったんですが、月日を重ねるなかで力をつけて来て。もう少し厳しい結果になってしまうことも想定していたので、秋は十分力を発揮してくれたと思います」

 なかでも、エースの自覚が芽生え始めた制球力抜群の杉本 迅投手(2年)、さらに打撃のキーマン・土屋 綸外野手(2年)、そしてチームをまとめる名波 瑛太内野手(2年)らが軸になって、チームを引っ張っている。

 春の大会から活躍が期待されるが、竹内監督は焦らない。

「夏の大会に標準を合わせているので、春は発展途上のなかで戦うことになると思います。でも、このオフを超えてどれくらいの力が付いたのか。今から楽しみですね」

 空で見守る恩師のために、御殿場西は静岡の頂点を目指す。