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長く、厳しいオフシーズンが終わり、いよいよシーズンを迎える。3月18日からセンバツが始まり、出場する32校は日本一を目指して戦う。そのほかのチームも目標はそれぞれだが、春季大会に向けて調整に入る。
そんなチームへ、「トレーニングは1回止めてしまうと、次第に退化し始めてしまうんです」と警鐘を鳴らしたのが、ゼット株式会社でゼット測定を担当する藤原大輔さんだ。
あらゆるチームで実施されるゼット測定の担当者の1人で、野球選手に求められるトレーニングに関する豊富な知識を持つ藤原さん。そんな専門家に今回取材をして、シーズン中のトレーニング、さらに夏、そして新チームでの活躍を目指す選手たちが意識すべきことを伺った。
トレーニングを止めず、スピードを上げてほしい
シーズンに入れば、必然的に技術練習が増える。トレーニングに使える時間は減ってしまうが、なぜ藤原さんは注意を促すのだろうか。
「トレーニングには三原理、五原則というのがあります。その中でも可逆性の原理という原理がありまして、トレーニングを止めてしまうと次第に退化して、最終的にはトレーニングをする前のフィジカルに戻る、というものです。
そうなってしまうと強い負荷がかかったとき、もっと言えば最後の夏に向けて強化練習で、練習量を増やした時にケガをするリスクが高まるんです。だから継続的にきっちりトレーニングをする必要があるんです」
よく見受けられるケースとして、夏の直前でもう一度トレーニング等で追い込む練習方法。夏の大会を勝ち抜くため、再度体づくりをするためなど、理由は様々だろう。そこに対しては「やりきる力や精神力、そしてチームとして一体感を作る」ことにも効果があると考えている。
ただ、「夏に至るまでのプロセスも突き詰められたら、もっと良くなると思います」と語る。では、同じトレーニングでもオフシーズンから、何を意識するべきなのか。
「オフシーズンは体を大きくする。体力強化、ベースアップが目的です。ただシーズンに入ったら、それを動かせないとプレーには還元されない。ボディービルダーになるために野球をやっているわけではありませんので、技術に昇華させるためにキレのある体づくり。スピード感を持たせて、動く筋肉にするのがゴールになります」
オフシーズン中のトレーニングの目的を、“エンジンを大きくする”と車を用いて表現をすることがある。その表現に乗っ取るとしたら、シーズン中のトレーニングは“ドライブ技術を磨く”といったところが近いか。
では、どうやってスピードを高めていくのか。藤原さんの答えは「オーバーペースを作ることです」と断言する。
「自分の力以上のスピード、つまり最速を出すことです。それで体に刺激を入れて、体に使い方を染み込ませる。覚えさせることが大切です。
なので、例えば後ろからゴムで引っ張ってもらってレジスタンス(抵抗)をかけた状態でダッシュ。緩やかな下り坂で走り抜ける。あとはアップのメニューにラダーやミニハードルを使ったり、塁間の半分くらいをダッシュしたりして、体に習慣づける。冬場につけたパワーをスピードに慣らしていくように、SAQ(Speed、Agility、Quickness)トレーニングを実施することが良いと思います」
幸いにも、「スピード系に関してはピリオタイゼーション(期分け)が短期間、習得に時間がかからない」ということは証明されているという。だから「練習に支障がないように、アップの時間に全力でやることをオススメします」と藤原さんは話し、技術練習はしっかり確保しながら、スピードを強化することを推奨する。
実際、自身の担当チームで強豪と呼ばれるチームのデータを引き合いに出しながら解説する。
「各チームによってトレーニング内容は異なりますが、シーズンに入るとゼット測定の項目である30m走や反応タイムが上がります。もちろん気候の関係で体が動かず、オフシーズンの際はタイムが伸びないケースもあります。でも、『オフでつけた筋肉をスピードにしてタイムを上げていこう』というので取り組んでチェックして、結果を出す。そういうところが結果を出している傾向があるように感じています」