2024年秋の東京都大会で、創部初のベスト4進出を果たした淑徳。都の21世紀枠推薦校にも選出されるなど、一際存在感を放ちました。同校の指揮を執る中倉 祐一監督が高校野球の現場の生の声を、高校野球ファンのみなさまにお届けします。

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 先日、春季東京都大会抽選会が行われました。予選(3/15~)は選抜大会に先駆けて、また各県予選よりも早く始まるのではないでしょうか。そんな、日本一早い開幕に向けて、各校はオフシーズンの過ごし方と時間の捻出について工夫を迫られます。もちろん冬のレベルアップは全国の学校のテーマだと思います。本校の場合、限られた練習環境から必然的に「個人練習重視」というマインドセットとなるがゆえに、練習に取り組む各自の成熟度合(自律)が鍵となってきます。

 球春到来に向けてより高いステージを目指すわけですが、この時期には、本校の練習環境は更に制限されてきます。日照時間から河川敷グラウンド(板橋区営)は使用できません。練習場所はブルペン、ケージ、ウェイト場、そして玄関口周辺のみです。

 また、場所だけではなく練習日確保も難しくなります。私立中高一貫校ですから、中・高それぞれの入試期間があり、自宅学習日となります。月末は定期試験期間に入るので、2月の練習日は14日間のみでした。

 前回の記事では「割り切る」ことからの能動的な思考が、良い流れにつながっているという考えをお伝えしましたが、本校のような環境では、オフシーズンこそ更に割り切らなければ、効果的な練習にはなりません。その中でどう練習の「量を増やし、質を高めていくか」が向上への課題となります。

 まず量については、他部との共用スペースに限界があるので、学校と保護者から下校時間延長(19時下校)許可を得て、30分という時間を捻出しました。わずか30分ですが、他部がいないスペース(内野程度の人工芝)を使えるのは練習の選択肢が格段に広がります。

 次に、最重要課題である質の向上です。以前は自ずと「練習内容の質(外的要素)」ばかりを考えていましたが、「個人練習」が強みの環境ですので、最近は「生徒自身の意識(内的要素)」向上を考えるようになりました。生徒自身がより意識を高くして取り組み、各自が自律することで練習効果は向上するということです。

 以前、進学校である本校の生徒達が与えられるままに学習をして、進学目標に比例してその量は増え、疲弊さえしているように思えました。「自分の思考に落とし込む時間はあるのか?」と、常に懐疑的に見ていましたが、ある時、ひたすら与えた練習をさせて満足し、同じことをしている自分がグラウンドにいることに気がつきました。生徒たちが自分で試行錯誤する機会もなく、受け身になるばかりで自律などできていないと猛省しました。

 指導者間でよく「今の意識で高校野球をやり直したいよな」と話すことがあります。過去とは違う選択肢を選ぶという単純な発想ではなくて、「もっと効果的にやれる」ということです。そう思えるのは学生時の自分と、当時よりも多くの経験を積んだ大人である自分とに意識の差がある(より自律できている)からです。そして、その経験とは必ずしも練習量の上積みということではなく、むしろ一見野球とは関係のない経験値の方がその言葉の根拠となっていると思います。先を歩む人間の考えを知ることで、相対的に現在の自分を向上させ、過去や同世代の人間よりも高い意識を兼ね備え自律した高校生となる。「大人になる」ということでしょうか。

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