3月18日から始まる第97回選抜高等学校野球大会は、新基準バットに変更されてから2回目の甲子園になる。ここにきて、フィジカルを徹底的に強化して、強打志向になるチーム、もしくは守備・走塁を極めて緻密な試合運びを見せるチームに分かれた。
3年ぶり27回目の選抜出場を決めている奈良の名門・天理は、昨年1月に就任した藤原忠理監督の掲げる「守り勝つ野球」を実践して昨秋の近畿大会で4強入りを果たした。藤原監督は一昨年まで全国大会常連の天理大を率いており、阪神大学リーグで6連覇を成し遂げた実績を持つ名将である。就任1年で甲子園に導いた。山梨学院と対戦する天理はどんなチームを作り上げてきたのか。
大学野球で行ってきたスタイルを継続できた
藤原監督は大学野球の監督生活が長かった一方、高校野球の指導は初めてだったが、昨年からバットの規格が変わったこともあり、木製バットを使う大学野球とあまり変わらないと感じたようだ。
「木製バットは飛ばないという観点で、ずっと野球を組み立ててきましたから、高校野球に就任して変わらなかったんですね。ただ、選手は首をずっと傾げるんですよね。要するに今までは外野を越えていたんでしょう。そこで、『外野の頭を越えない』から『どういう風に野球を切り替えていくんだ』というところを根気良く説明しなきゃいけないなと。だいぶ神経を集中しました」
大学野球は投手のレベルが高く、得点を取るのが高校野球よりも難しい。「1試合で5、6本のヒットでどう点を取っていくかということを常に頭に置いていました」と失点を少なくして、チャンスを確実にものにする野球を目指すようになった。主将の永末峻也(2年)は野球の変化をこう感じている。
「打つだけじゃなくて、セーフティバントであったり、フォアボールであったり、足を使った野球と攻撃面のレパートリーが多くて、勝つにはそういうことがふさわしいのかなと感じました。守りに関しては、ノーエラーを目標にしていて、『少ない失点でチャンスをものにする』というテーマもあるので、それは藤原監督になってすごく大事なことだなと気づきました」
守備において藤原監督が重要視しているのが遊撃手。今年のチームはプロ注目の選手である赤埴 幸輝(2年)が務めている。遊撃手には技量だけでなく、視野の広さも大事であると藤原監督は言う。
今年のキーマンである永末
「捕って投げてというだけ、守備範囲が広いというだけではなく、大事なことは周りが見えるか見えないかということですね。ですから、赤埴にも『常に外野の守備は確認しなさいとか、サード、ファーストをもうちょっと動かしなさい』という風に周りを見る練習はだいぶさせました」
赤埴自身も「周りに目を配るであったり、守備位置であったりだとか、そういうところを常に気にしています」と藤原監督の教えを忠実に守っている。状況に応じた守りをすることで失点や進塁を最小限に防ぐことができ、昨秋の好結果に繋がった。
攻撃面でも意識の変化がある。藤原監督が天理大を率いてきた頃は1~3番に脚力のある選手を置いて、長打力のある4番打者が打点を稼ぐ攻撃スタイルだった。天理といえば、強力打線をイメージする人も多いだろうが、今のチームはそこに走塁への意識の高さが見える。従来ほど打ち勝つ野球の実践が難しい環境の中で、得点力を高めるために機動力は必要だと藤原監督は感じているようだ。
「打てたら良いなとか、点が入ったら良いなというよりもしっかり狙って点を取っていきたい。その最大の武器が走力だと思っています。1~3番に走力のある選手がいれば、置きたいと思っています。塁間の中で1、2秒も変わることはありません。ですから、判断力や投手の癖を盗む力をしっかりと教えていきたいですし、重視したいと思っています」
現チームでは1、2番を打つ赤埴と永末、4番の冨田 祥太郎(2年)、エースの下坊 大陸(2年)が足を使える選手。「足の速い選手と長打力のある選手、これが上手く組み合わさったら良いですけど、なかなかそうは上手くいかないと思います。天理野球の中で、点の取り方のイメージを作り上げたいと思います」と藤原監督はセンバツに向けて、新たな得点の取り方を模索している。
新基準バットが導入された昨年の甲子園は春が3本、夏が7本という一昨年までよりも大幅に減っている。木製バットと似た感覚になっているという藤原監督の証言を考えると、高校生と大学生では体力、技術力には大きな差があることが考えられる。藤原監督は大学生がレベルアップしている一方、高校生も新基準バットに慣れてくれば、本塁打は増えるのではないかと考えているようだ。
「体幹が20歳を超えたら、断然変わってはきますね。今の大学野球は、一時と比べますと、本当に打力が上がってきています。大学生も本当に筋力が付いてきて、木製バットを操れるようになったという感じですね。ですから、高校生もしっかりと打ち込ませて、パワーも付ければ、低反発バットに慣れてきて、良い長打が生まれてくると思いますね」
その答えはどう出るのだろうか。これから数年の行く末を見守りたい。