昨秋、福岡の高校野球界で「超伝統校」が快進撃を見せた。1758年の藩校開設の流れをくむ県内最古の歴史を持つ育徳館が、秋季福岡大会で準優勝を果たし、九州大会に初出場。1勝を挙げて8強にも進出し、センバツ21世紀枠の福岡県推薦校となった。
残念ながら九州地区推薦の候補校になれなかったが、昨秋の奮闘は、春以降の福岡の「新風」となることを予感させる。快進撃を見せたナインの強さの要因を、3回に分けて紹介する。第1回はメンバー編。
冬のトレーニングに励む日々を送った育徳館ナイン。平日は2時間あまりの短い練習ながら、密度の濃い練習を行った。それは、部員が輪を作って心をひとつにすることから始まる。
エースとしてチームを支えてきた島 汰唯也投手(3年)は言う。「秋は、試合をするたびにみんなが協力しあって、盛り上がっていった」。勝ち上がることでチームの結束はより高まり、ナイン全員が「その気」になっていった。
育徳館は中高一貫で、中学生も同じ敷地内の校舎で学んでいる。その中学から高校へとそのまま野球部に入る選手は毎年多いが、今年は特に多いという。さらに、主将である隅田 勇輝捕手(3年)は「今の3年生は地元の選手が多く、市内大会とか、中学の頃から顔見知りも多かった」という。育徳館中以外の選手でも知人も多く、育徳館に集まってきた。
現在の3年生が中学3年だった3年前の夏、育徳館が福岡県でベスト8に進出した。4回戦で大牟田に9回サヨナラ勝ちし、5回戦では久留米商と延長14回タイブレークに及ぶ激戦の末に、逆転サヨナラ勝ちを収め、準々決勝へ進んだ。惜しくも筑陽学園の前に逆転負けして4強入りはならなかったが、2試合連続サヨナラ勝ちした育徳館の先輩たちの姿が忘れられないものとなった。
育徳館中出身ではない隅田は、その活躍を見て育徳館高校への進学を決めたという。育徳館中3年だった島は「先輩が育徳館高校に進んだこともあって、自分も行こうと決めた」と振り返り、先輩たちの活躍に大きく刺激を受けた。
秋季大会後に行われた1年生大会では、育徳館が福岡中央地区で優勝を果たした。現在の3年生は、飯塚に完封勝ちし、鞍手に競り勝ち、決勝で嘉穂に7回コールド勝ちを収めた。地元で集まったナインの結束は結果を出し、自信をつけていった。
そして最上級生となった秋に福岡で準優勝し、九州大会でも1勝を挙げた。3年前の夏に快進撃を見せた先輩に刺激を受けた地元の選手たちは、先輩たちを大きく超える活躍を見せた。
「九州大会が終わって、地元の大会があったんですが、そこでも優勝させてもらった。彼らにとって九州大会で勝つのも大事だが、地元の高校には絶対に負けたくないというのがあるようなんです。顔見知りも多いですからね」
そう話したのは高木部長。中学時代から気心知れた選手も多く、地元で活躍していた選手が育徳館に集結した。勝ち上がるたびに結束力が高まっていったのも、うなずける。
次回は監督編。井生監督の指導方針に迫る。