昨秋、福岡の高校野球界で「超伝統校」が快進撃を見せた。1758年の藩校開設の流れをくむ県内最古の歴史を持つ育徳館が、秋季福岡大会で準優勝を果たし、九州大会に初出場。1勝を挙げて8強にも進出し、センバツ21世紀枠の福岡県推薦校となった。
残念ながら九州地区推薦の候補校になれなかったが、昨秋の奮闘は、春以降の福岡の「新風」となることを予感させる。快進撃を見せたナインの強さの要因を、3回に分けて紹介する。第2回は監督編。
育徳館の練習取材に訪れると、練習の前に、ミーティングが開かれていた。グラウンドに選手が輪になって座り、全員の視線の先には井生広大監督が立っていた。
練習後、グラウンドに球が1個残ったままになっていたことで、井生監督がナインに向かって諭すように話した。
「秋の大会で、福岡で準優勝して、九州大会でも1つ勝った。この結果は監督の指導のおかげではない。部長先生の指導のおかげでもない。おまえたちが頑張ったからだろう?一生懸命やってきた、その姿勢があったからだろう?それを一気に落とすなよ」
ナインの頑張ってきた姿を知っていた。日頃の姿勢も知っていた。そんなナインの成長がうれしかっただけに、ちょっとした「気の緩み」は命取りになることをナインに諭した。選手は視線を変えることなく、じっと井生監督を見つめている。
「俺はおまえらを信じている」
井生監督がそういうと、ミーティングが終わり、選手は練習の準備へとかけだしていった。
「技術は練習で必ず上手になるわけではなく、やはり人間力がないと技術は上達しないと思っているんです」
これが井生監督の指導の骨子だ。小倉高校出身で、明治学院大を経て独立リーグ徳島、愛媛でプレー。数々の経験と苦労から、技術だけでなく、「人間力」が向上しないと技術も向上しないと信じるに至った。
昨秋、エースとして活躍した島 汰唯也投手(3年)について「学校でも担任として受け持ったり、日頃から接することも多いんですが、グラウンド外でも人間的に成長したなって思うことが多くなっていった。そういうことが大事なんですよ」と評価している。
隅田 勇輝主将は、井生監督について、こう話す。
「真摯に野球と向き合い、僕たちが1つ相談しても、真剣に考えてくれている。その日だけでなく、後日になっても、またその解決策を教えてくれたりします。僕たちのことを、考えてくれているんだなと感じます。野球の面において、たくさん勉強させられています」
秋季福岡大会の準々決勝では、久留米商に逆転勝ち。準決勝の東福岡戦では、1対5で迎えた7回に一気に7得点して逆転。9回に再び追いつかれたが、その裏に1点を奪ってサヨナラ勝ちした。「劣勢だったゲームをひっくり返す、そんな力がついた。成長したのかなと。チーム力が上がっていった」。井生監督も精神的にタフになったナインの成長に目を細めている。
33歳の井生監督。練習を指導している姿は、まるで選手の兄のよう。時には厳しく、時には温かく…。ナインの人間力はさらに磨かれていく。
最終回は、藩校時代から受け継がれる伝統の「文武両道」に迫る。