昨秋、福岡の高校野球界で「超伝統校」が快進撃を見せた。1758年の藩校開設の流れをくむ県内最古の歴史を持つ育徳館が、秋季福岡大会で準優勝を果たし、九州大会に初出場。1勝を挙げて8強にも進出し、センバツ21世紀枠の福岡県推薦校となった。

 残念ながら九州地区推薦の候補校になれなかったが、昨秋の奮闘は、春以降の福岡の「新風」となることを予感させる。快進撃を見せたナインの強さの要因を、3回に分けて紹介する。最終回は「文武両道」編。

 福岡大会で3番として活躍した山下 恩生外野手(3年)は、大会通算打率.370をマークした。敗れた決勝(西日本短大付戦)でも3安打と1人気を吐いた。

 「低めのボールになる変化球を振らなくなった。構えをオープンにすることで球が見えるようになった」

 打撃好調をそうハキハキと説明した山下は、もうひとつ自慢することがある。

 「学年で2番をずっと、取っています。現時点での志望は九州大学の医学部です」

 学業面でもトップクラスと優秀な成績を収め、チームでも主軸を任されている。

 育徳館は1758年に開設された小倉藩の藩校「思永斎」が源流とされている。その後「豊津中」となった後、小倉分校が設立され、現在の小倉高校となっている。藩校の流れで本を正せば、育徳館が「本流」で小倉は「分校」。そんな伝統もあり、文武両道の精神が根付き、現在まで引き継がれている。

 井生監督は、1番打者に起用している高瀬 永遠内野手(3年)の成長に目を細めている。「自分で考えて野球ができるようになった。打撃では相手の守備位置を見てバントも含めてどう打てばいいのかを判断し、守りでも相手の打撃を見てポジションを変えたりしている」。教えられなくてもしっかりと状況判断ができる選手がでてきている。

 主将の隅田 勇輝捕手(3年)は「勉強もできるし野球もできる。しっかり文武両道ができると思って育徳館を選んだ。大学でも野球をしたい」と高校進学の理由を話している。

 短い練習時間でも、効率よくレベルを上げるために、選手同士でメニューを考えることもあるという。野球だけでなく、グラウンド外でも「高校生」としての本分を忘れない。その姿勢が、野球でもプラスになっている。

 野球部創部127年。長い伝統の歴史に、福岡県準優勝、九州大会出場という大きな1ページを刻んだ育徳館ナイン。2025年は福岡の「主役」として、大きく羽ばたくに違いない。(おわり)

育徳館の秋季大会成績

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