新基準バット導入1年目の昨年、センバツでは健大高崎、夏では京都国際が優勝を収めた。どの学校も試行錯誤する中、健大高崎は高い投手力と伝統の機動力に強打。京都国際は左腕2枚看板、堅い守備、低くライナー性の打球を内野の間を抜く好打を連発して、頂点を掴み取った。
「京都国際のようなスタイルは今後どの学校も踏襲してくるでしょう。その上を行く野球が求められます」と語ったのは、元県岐阜商の監督で現在は枚方ボーイズで指揮を執る鍛治舎巧監督だ。
昨年の夏の大会前のインタビューで鍛治舎監督は、「高反発の金属バット時代と比べて指揮官の駆け引き、采配の工夫、そして作戦の取捨選択で、間違いなく勝敗の損益分岐点が大きく変わって来る」と語っていた。その通り、昨夏の甲子園はまさに緻密な駆け引きが行われた大会だった。
新基準バット2年目となり、各校の選手たちも新基準バットに慣れてきた中、どんなチームが全国の頂点を掴むのか。また「全国にいくには非凡な練習がまず必要です」と語る鍛治舎監督の「非凡な練習」の定義についても語った。
甲子園初年度で活躍した野球スタイルが2年目以降も通用するとは限らない
—— 昨年5月、お話を聞いた際には「新基準バットになることで、より細かい野球をするチームが勝つようになり、公立校にもチャンスがでてくる」と語っていました。そして昨夏の甲子園優勝を収めた京都国際は鍛治舎監督がおっしゃるような守備、走塁もきめ細かいチームでした。
鍛治舎監督 京都国際監督の小牧(憲継)さんが自宅を訪れてくれた際に聞いた話です。京都国際はグラウンドが狭いので、室内の打撃練習で1日1000本以上は、低く速い打球を打つことを心がけたといいます。甲子園ではヒットゾーンにしっかりと弾き返していました。さらに優れた左腕投手が2人いて、投手力も万全。甲子園特有の塁間を抜くヒットを多く重ねて勝つことができました。
昨夏甲子園優勝の京都国際
ただあの野球スタイルのままでは勝てないと思っています。京都国際が実践した野球はどの学校も今年はクリアしてきます。その先を行く野球をしなければ勝つ確率は低くなります。例えば、詰まっても内野の頭を超える。芯で捉えれば、確実に外野の頭を超える打撃力、つまり、低く強いライナー性の長打の可能性をより多く秘めた打線を作ることです。
分かりやすく言えば、ゴロでは長打は打てない、打球角度16度のライナーの方がよりヒット率も長打率も高く、現在の高校野球界の投高打低が際立つ中では、攻めて勝つ確率、つまり勝利の損益分岐点はより高くなります。
——京都国際をはじめ、昨夏甲子園で勝てたチームは新基準バット初年度ということで、試行錯誤しながら野球をやっていた感じがします。
鍛治舎監督 そうですね。小牧さんは、先程申し上げたように、私の自宅に遊びに来てくれたので、半日ぐらい話をしたんです。そこで「今の低く強い打球を打つ野球スタイルのままでは次は勝てないよ」と伝えました。みんなそういう野球をやってきますし、さらに新基準バットに慣れてきて、本塁打を打てる可能性も高まります。相手が甲子園で勝ち抜いた京都国際の研究を進めて、対策した上で試合に臨んでいくので、その上を行く努力をし続ける必要があります。一旦、頂点を極めるとデータ含め丸裸にされますから、達成感に浸っている暇などなく、監督は大変です(笑)
——昨秋の明治神宮大会では10試合で3本塁打でしたが、打撃戦もあり、長打数もかなり増えた感じがしました。新基準バットで強打を発揮しているチームが増えています。
鍛治舎監督 慣れてきたら長打は増えていきますよね。高校野球に金属バットが導入されたのは昭和49年(1974年)。その前年までの高校野球は、昨秋、明治神宮大会に出場した広島商のような、四死球を出さない投手がいて、スクイズ、犠打、ヒットエンドラン、意表をつく走塁等々を絡めて勝つ野球が主流だったわけですよ。
——今後はどんなチームが頂点を掴んでいくと思いますか。
鍛治舎監督 「非凡な選手が集まっていて、非凡な練習をして、非凡な野球ができるチーム」が勝つ確率が高い。これは当たり前のように聞こえますが、これまで超名門校には、中学時代から才能を発揮してきた非凡な選手が集まってきました。今春センバツでいえば横浜には全国から名だたる中学生が集結しています。その横浜がそうという訳ではありませんが、一般論として、甲子園での戦いを見ると、才能の高い選手が集まったチームは比較的、平凡な野球をしている。いわゆる横綱野球です。
負けた際には 「セオリー通り送りバントをした」「エースを立てて負ければ仕方ない」といった、言い訳采配をしがちです。厳しい言い方になりますが、こういった平凡な野球をしていても、これからは全国では勝てません。「非凡な野球」を展開するには、非凡な練習をすることですね。先程、ゴロより打球角度16度のライナーがヒット率も長打率も高いと申し上げましたが、具体的にどうするか、論理的に積み上げて考えれば簡単なことです。
先ずはスイングスピードを上げることです。スイングスピードが上がる効果は、打球速度の増加、飛距離の増加で量ることができます。
どうスイングスピードを上げるか、これも簡単明瞭、絶えず計測することです。計測しないと打者は全力でバットを振りません。母校の県立岐阜商では、赴任した18年4月にスイングスピード130キロ超の打者がひとりもいませんでした。前年夏の選手権岐阜大会、同じ県立高校にコールド負けしたチーム状態でしたから当然と言えば当然です。
広島にドラフト1位で入団した佐々木 泰(青山学院大)が、その年の4月に入学しましたが、MAX125キロでした。フリーバッティングの際に全員に「140キロ超えないと夏のベンチには入れないよ」という言葉を添えて、毎日測定しました。
それだけで夏前にはベンチ入り全員が140キロ超を記録していました。佐々木は、1年後150キロ超を記録、コロナ禍を超え、一流への道を着実に歩んで行きました。
次のステップでは、スイングスピードに加え打球速度も測定。
同時に1キロの木製バットで10分間で100球。より遠くへ飛ばすロングティを実施。80m超1ポイント、90m超3ポイント、100m超5ポイントで計測。100球全て打ち損じなしで100m超なら500ポイント‼それが満点です。
これは、着実に飛距離アップを目指す練習です。「レギュラーメンバー25人の平均が300ポイント超になれば、間違いなく甲子園ベスト4には行けるよ。目標はその先だからね‼」と伝え例年7月初頭にはそれもクリアーしてきました。
投手も同様に赴任した4月は130キロ超はゼロだったのが、毎日・毎球、スピードガンで測定。夏前には13人がクリアしてきました。数年前からは、ラプソードも使い、回転数、回転軸、ホッブ率なども測定。どういう体勢でどう、どこに力を入れるのが有効か、個人が主体的に考えるようになっています。例年夏には140キロ超の投手が5~8人になっています。
さらに、その為には、フィジカルをどう上げるか、具体的に『チャレンジ150/h』と名付けたメソッドを策定。ベンチプレス、デットリフト、スクワット、アッパーバック、ハイクリーン、握力、メディスンボール(距離と滞空時間)、立ち三段跳び、立ち幅跳び、ボックスジャンプ、前後の肩関節可動域、200m走、30m走、プルダウン等々、20種目に及ぶ内容をこなし、その週、月次変化、シーズン変化、年度変化をレーダーチャートにして伸長度チェックをしています。いびつで小さな丸を大きくバランスのとれた丸にしていく。投球スピード150キロ超に向けて、その効果は確実に上がっています。
球速アップはまさしく正義です。より速くなれば、空振りは増え、ボール球を振らせ、凡打の山を築くことができる。実感として90マイル超(145キロ~)のスピンが効いたストレートをヒットされる確率は極めて低い。この先、高校生は、150キロ超が目標かなと思い、やってきましたが、新基準バット導入で少し遅れそうですね。
それを踏まえても、身体のケアをしっかりやって、投手はAVE145キロ超+サムスイングを身につけることが理想です。サムスイングとは三振の取れる変化球。代表的な球は、シンカーやチェンジアップといったストライクゾーンをよぎる縦変化、待っても来ない前後の時間差を活かす球ですね。
試合では、自チームの得失点パターン、状況別得点率等々を把握しながらチャンスに確実に得点し、ピンチを最少失点で抑え切る。1試合、1大会を見通した状況判断能力、思考力、プレーの精度の高さが問われる時代になりました。