これからの甲子園はより判断力があるチームが強い時代が到来する

——強豪校を除くと、非凡な選手はなかなか集まらないと思いますが、全国に行くには非凡な練習が必要なんですね。

鍛治舎監督 秀岳館時代、甲子園ベスト4を連続3回経験して、これぐらいの練習をすれば、ベスト4に行けるんだ、という手応えはありました。言い方はともかく、平凡な選手に非凡な練習をさせれば、甲子園ベスト4位まではいくことが出来ると断言します。

 だけどベスト4を超えるには、勝負が決まる局面で非凡な選手が一定数いないとその先には進めないと実感しました。優勝するには、プラスアルファの要素が必要です。「この場面でそんなプレーができるの?」といった想像を超えるパフォーマンスを見せる選手が2人、3人は必要だと思います。頂点を極めるには、非凡な練習を重ねた上で、確保するにしろ育成するにしろ、非凡な選手が数人は必要だろうな…ということです。まあこれは栄冠への極論ですね。

——以前のインタビューでも、これからの高校野球はセイバーメトリクスなどの観点で野球を極めることが大事と語っていましたね。

鍛治舎監督 投手にとってやってはいけないこと、避けたいことは、先ず最優先は、四死球を与えないこと、ホームランを、打たれないこと。無条件で塁を与え、得点を許すことは避けたい。逆に三振、内野フライ、内野ゴロ等々はアウトの確率が高くなる。打ち取る確率をどう上げるか、安心できる結果をどう産み出すか、どのコースに何を投げるか、球場の広さ、風向き、グラウンド状態等々も把握しながらケースバイケースで的確に対応しないといけません。

 それがセイバーメトリクスの基本・基礎的な進め方ですね。

 攻撃は、相手バッテリーの配球を読んだヒットエンドラン、ランエンドヒット、ランナー三塁に置いてのヒットエンドランなど、巧みで戦術的な攻撃、走塁技術を選手が抵抗なく身につけ実践できると、相手は浮き足立ちます。必然的に自チームのペースで試合が展開され、投手力と相まって、負けないチームに近づけます。それは日常の練習の中で充分培われるものです。


枚方ボーイズの選手たちを見守る鍛治舎監督

——選手が臨機応変になると強いですよね。

鍛治舎監督 プレーする時に選手たちに3つ考えてほしいことがあります。「その場面で絶対にやってはいけないこと」「最低限やらないといけないこと」。そして「最高の結果を思い浮かべること」です。この3つを考えるなかでどう打ち、走り、守ればいいか、絶えず動いている展開の中で、取捨選択してプレーする。そこをどう教え込むのか。というよりは学びとるかですが、時間はかかりますが大事なことです。それは平凡そうに見えて深い、非凡な野球なんですよね。そうした判断ができる選手を育成できるチームはやはり強いと思います。

それも日常の練習の中で培われるものですが、各場面での最適解を選手が学びとるには、指導者の与えるヒントの質と、迷いから抜け出させる為の納得できる説得力、選手自身の根気と忍耐が必要です。

——確かにボールをより速く投げる。より遠くへ飛ばすことにこだわる選手は多いように感じます。

鍛治舎監督 ストライクゾーンは、高低では脇の下から膝の上まであって、横にも広くあります。ストライクゾーンは結構広く大きいわけです。その広いゾーンの真ん中に投げ続ければ水準以上のスピードがあっても、打たれるのは必然です。

 右投手であれば右打者に対する攻め方は、腕の振りを考えると、内角高め、外角低めの対角線を中心にすると投げやすい。それに外角高め、内角低めを組み合わせ、どう上手く使うのか。左投手で左打者の場合にも同じパターンで攻める。それだけではなく、ストレートのMAXから最大40キロ遅い変化球まで、段階的にきれいにスピードが、セパレートされた球の組み合わせは撃ち取るのに有効です。

 MAXから10キロ遅い、速い変化球。20キロ遅い変化球、30キロ遅い変化球、40キロ遅いスロー変化。きれいにセパレートされていると、打者はひとつのタイミングでは球を捉えきれない。特別速い球がなくても長打を浴びる確率は、極めて低くなります。

 目の錯覚を作り上げることも大事。なかなかボールが来ない前後のストライクゾーンで攻めるチェンジアップ系統も有効てす。

 近年は器用な左投手が多くなりました。京都国際の西村投手がそうですよね。スライダーを投げて、同じ角度からチェンジアップで落とす。同じように見えますが、打者の近くで全く違う軌道の変化を描く。これも巧みな攻めです。とりわけ外角コースいっぱいにストライク・ボールの出し入れが出きれば、打者は混乱に陥ります。だからストレートが120キロ台〜130キロ台でも目の錯覚が使える投手は頭脳派、1試合を投げきる力が身につきます。

 2017年は広陵中村 奨成(現広島)が登場した年ですが、夏の甲子園の本塁打が68本で歴代トップになりました。この年から投手の組み立てが大きく変わりましたね。

 それまではストライクをコースに集めて追い込んだら、速いスライダー、フォークで打ち取りに行く配球でした。しかし、この年以降、1球目からチェンジアップやカットボールなど縦横変化、時間差のボールを投げる配球に切り替えるチームが多くなりました。

 一番最初に取り入れたのがこの年甲子園優勝した花咲徳栄(埼玉)です。先発の綱脇(慧)投手、抑え役の清水達也投手(中日)がいて、綱脇投手は、いきなりチェンジアップから入り、スライダーも使いながら、追い込んでからフルスイングできないインコースストレートを中心にして勝負した。抑えるための配球の最適解をいち早く身につけたチームが、最終的に勝つ確率が高くなります。

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【鍛治舎 巧】かじしゃ・たくみ

1951年5月2日生まれ。県立岐阜商-早稲田大-松下電器(現・パナソニック)。69年、センバツでエースとして8強、早大では5シーズン連続3割、2度のベストナインを獲得し、日米大学野球大会4番を経験。松下電器では主に外野手として活躍。引退後、松下電器の監督、全日本代表コーチを歴任。また中学硬式「枚方ボーイズ」の監督として、12度の日本一に輝く。2013年には中学全ての全国大会を優勝する「中学五冠」を達成した。2014年4月から秀岳館(熊本)の監督に就任。2016年センバツから4季連続で甲子園出場。ベスト4に三度進出する。2018年3月から母校の監督へ。20年センバツ(中止)、21年春夏、22年夏と4度の甲子園出場。甲子園での戦績は10勝7敗。24年8月に監督に退任し、現在は枚方ボーイズの監督に復帰。今月3月下旬に開催されるスターゼンカップ 第55回日本少年野球春季全国大会に出場する。