鍛治舎監督が明かした新基準バット対策の練習法

——お話を聞くと、考える野球とスケールの大きい野球は両立できるはずなのに、高校野球は極端になりがちですね。スケールは大きいけど、粗すぎる。細かいけど、パワーがないので、怖さがない。

鍛治舎監督 新基準バット対策として、ハンドワークを良くしてミート力をつけるために、トスバッティングを3対1 に変えました。ワンバウンドで投げた選手に返す、次にノーバウンドで返す、そして逆手で返すトスバッティング。

またフリーバッティングに加え、軟式野球部からボールを600球ほど借りて、マシンで80キロぐらいの遅い球を手首を返さず面で押し返すバッティングを1人100球、徹底的にやりました。軟式ボールは難しい。これらを冬場に2ヶ月以上続け、ヒット率を積算し、レギュラーメンバー25人の内、上位5人、下位5人を毎日発表。下位を続けると3月にはベンチ外に‼この嚇しは極めて有効(笑)でした。

昨年も県岐阜商はトレーニング、技術練習をたっぷり行っていた

 全員のヒット率平均値も出し競争させると、みるみる各自のヒット率が高くなっただけではなく、ホームランが出るようになりました。シーズンに入っても、オープン戦で1試合1本の割合でホームランが出るようになり、結果を見ても、この練習は効果抜群でした。地道な練習でも辛抱強く続ける必要があります。

 選手のレベルアップのために突き詰めた練習ドリル、さらに筋力トレーニングで徹底したフィジカル強化を図る。今はいろんな機器を使いながら、数値化できる時代。筋力トレーニングも、投手、野手、個人別に、最大筋力アップ、スピードアップ、柔軟性アップに向けた種目が多数あり、全て数値化・見える化して、伸び率を評価しています。先述のラプソードを活用したボールの回転数、回転軸、ホップ率、さらにプルダウンなどを測って、自分のフォーム、球質を客観視する。選手が自分たちで考える野球を常に継続する。そのことが着実にチームのスパイラルな成長に繋がっていきます。

 その中で、選手たちの考えが及ばないところがあります。そこが指導者の出番。「なぜできなかったと思う?」「何が問題なんだろう?」「何に気付いた?」「何が読み取れる?」

 絶えず問いかけてみる。彼らが何に気付き、受けとめ、感触をつかみ、何を察知したか…さらに小さな成功体験からどういったことが判明し、それを立証し、どう解決したか、問題の深堀りをさせる。

 指示、指導から問いかけへ。

 心の知性を鍛え上げ、野球知を創造する。これが、野球版アクティブラーニングです。

 これからの時代、極論すれば、教えたがりの指導者は要りません。指導者は上達のヒントを与え、選手自らが、何を解決するのか考える。

 野球は極めて失敗の多いスポーツです。選手同士で、起きた事象を肯定、否定し、論争しながらグループワークを重ね、失敗の本質をつかむ。それをチームで共有し、知識化し、成功の方向付けをすれば、彼らの夢の膨らみは計り知れません。そうした丁寧な積み重ねこそ、唯我独尊になるかも知れませんが、令和の時代に生きる野球人の歩む道、新たな高校野球のセオリーだと思います。

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【鍛治舎 巧】かじしゃ・たくみ

1951年5月2日生まれ。県立岐阜商-早稲田大-松下電器(現・パナソニック)。69年、センバツでエースとして8強、早大では5シーズン連続3割、2度のベストナインを獲得し、日米大学野球大会4番を経験。松下電器では主に外野手として活躍。引退後、松下電器の監督、全日本代表コーチを歴任。また中学硬式「枚方ボーイズ」の監督として、12度の日本一に輝く。2013年には中学全ての全国大会を優勝する「中学五冠」を達成した。2014年4月から秀岳館(熊本)の監督に就任。2016年センバツから4季連続で甲子園出場。ベスト4に三度進出する。2018年3月から母校の監督へ。20年センバツ(中止)、21年春夏、22年夏と4度の甲子園出場。甲子園での戦績は10勝7敗。24年8月に監督に退任し、現在は枚方ボーイズの監督に復帰。今月3月下旬に開催されるスターゼンカップ 第55回日本少年野球春季全国大会に出場する。