中学球界でも選手の主体性を持たせる指導を貫く

――高校野球をやって、中学生への指導の仕方は変わってきたのでしょうか。

鍛治舎監督 高校野球を9年半やってきて、指導する高校球児に対しては考えた通りに育て上げるメソッドを確立しました。県岐阜商では4回甲子園に出場して、サヨナラ負けばかりで、勝ち切ることはできませんでしたが、秀岳館時代の3季連続ベスト4を含め、甲子園で勝つチームは、創ることができたと自負しています。

 監督最後の1年は打球が飛ばない新基準バットとなりました。野球が変わったし、こうした高校野球の実情を経験して中学野球に戻ってきたので、どう指導すべきか考えました。新基準バットは芯が小さくなっただけで、木製バットに極めて近い形になりました。芯で捉えれば、打球は飛びます。正しいスイング軌道、タイミングの取り方を会得すれば、結果が出ることが分かりました。

 新基準バットでスタイルが変化した高校野球に対応するために中学野球にも波及することが考えられますが、大学生になれば、木製バットで戦うことになります。目先のことに囚われないで選手の先の将来を考えた指導をすべきだと思いました。

——枚方ボーイズに戻ってきて、選手は変わりましたか。

鍛治舎監督 笑顔でプレーするようになりましたね。一番は主体性を持ってほしいということ。返事が「ハイ!」ではなくて、本当に分かったら「ОK」と言いなさい、納得したら「なるほど」と答えてほしいと伝えました。ハイと答えるだけだと行動は受容的になる。ただ聞くようにではなく、何が分かったのかを聞くようにしています。かなり定着して、私にも疑問を問いかけるようになりました。本人が分からなかったら「なるほど」とは答えません。良いチームになって来たと思います。「深く考える野球」になりつつあるなと思います。

——指導者が言わずとも、自主トレで練習ができる主体性が高校野球でやる上では必要ですよね。

鍛治舎監督 高校は1週間で、ほぼ6日間、朝トレに通常練習をしますから、それには根気、集中力、体力が必要です。中学時代に平日含め、しっかり準備しておくことが大切です。

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【鍛治舎 巧】かじしゃ・たくみ

1951年5月2日生まれ。県岐阜商-早稲田大-松下電器(現・パナソニック)。69年、センバツでエースとして8強、早大では5シーズン連続3割、2度のベストナインを獲得し、日米大学野球大会4番を経験。松下電器では主に外野手として活躍。引退後、松下電器の監督、全日本代表コーチを歴任。また中学硬式「枚方ボーイズ」の監督として、12度の日本一に輝く。2013年には中学全ての全国大会を優勝する「中学五冠」を達成した。2014年4月から秀岳館(熊本)の監督に就任。2016年センバツから4季連続で甲子園出場。ベスト4に三度進出する。2018年3月から母校の監督へ。20年センバツ(中止)、21年春夏、22年夏と4度の甲子園出場。甲子園での戦績は10勝7敗。24年8月に監督に退任し、現在は枚方ボーイズの監督に復帰。今月3月下旬に開催されるスターゼンカップ 第55回日本少年野球春季全国大会に出場する。