「高校野球7イニング制について議論されていますが、これについては1年間、この制度でやるための理屈付けがされていません」と批判的に語るのが、元県岐阜商監督でアマチュア球界の重鎮・鍛治舎巧氏だ。これまで鍛治舎氏は猛暑の負担軽減のためにDH制導入など高校野球の改革のために様々な提案をしてきた。

先日、高野連は今年10月に滋賀で開催される国スポは7イニング制を導入することを正式決定した。鍛治舎監督に「7イニング制」や、今後の高校野球、野球界について提言してもらった。

なぜ7イニング制の前にもっとやることがあるのではないか

——まず今年度から議論された7イニングについてはどう思いますか?

鍛治舎監督 猛暑の夏の甲子園、選手の負担軽減をするために7イニングを検討するとの報道が見られますが、夏選手権だけ7イニングにすることは、受け入れがたいですよね。

 直近では、必ずしも猛暑とはいえない国スポを7イニングにすることとなりました。

 夏の選手権準々決勝進出チーム、それに準じたチームを中心とした実力も体力もあるチームが対戦する秋の季節の国スポで7イニング制を導入しても何の効果も得られないと思います。それに伴い、何の議論もなしに、なし崩しにセンバツでも7イニングにするのでしょうが、そのための理屈付けが必要です。その理屈は見当たらない。

 これ一つとっても現場の意見をくまなく聞くべきでもっとやることがあると思います。甲子園でもコールドゲームを導入するとか、投手の負担軽減をするためにはDH制にするなど、7イニング制導入の前に、検討することはたくさんあります。

——地方大会で行われているコールド制を甲子園で適用することや、DH制はずっと訴えられていましたね。

鍛治舎監督 高校野球だけが話題の中心となり、盛んに議論されていますが、視点を変えて高校サッカーのインターハイにも目を向けてほしい。昨夏の大会は7月27日から始まり、決勝戦は8月3日でした。決勝に進出の昌平神村学園は8日間で6試合戦っています。サッカーはハーフタイム10 分以外は、常に動き続けるスポーツです。一番暑い時期に8日間で6試合行って、選手たちは走り続ける。その危険性について誰か投げかけていますか?世間の方々を巻き込むほど関心を持たれていますか?私の認識では、それはありません。

 やはり甲子園の高校野球というのは、国民的スポーツそのもので、小さなことでも大きく報道されたり批判されることもある。日本高野連が苦心惨憺されるのもよく分かります。

 その野球は、甲子園開催全日程、クーリングタイムもある。まして試合時間の約半分は座っています。運動量を比較したら、サッカーの方が遥かに多いでしょう。選手の負担軽減のための7回制導入という主旨なら、屋外で行われる他の競技との比較もすべきだと考えます。

 付け加えれば、今夏の甲子園、猛暑を避けるために二部制が初年度は3日間行われ、今大会は 1回戦17試合と2回戦2試合の計19試合が2部制で行われることになります。

 昨夏と比較すると、休養日が増え第1試合8時開始の試合は13日間と同じになっている。

 その日は、各校遅くとも6時30分には甲子園に入ります。起床は4時前になる。選手の健康配慮と言うなら、その日を少しでも減らした方が遥かにいいと思っています。

 高校野球の現場を10年ほど担当してきて、それを痛感します。

 朝8時開始の試合、早朝からコンディションを整えるのは、昼間の試合以上にとても大変なんです。

——国際大会では7イニングとなっていますが、導入の過程が違うんですね。

鍛治舎監督 これはIOC(国際オリンピック委員会)の判断で始まったんです。手前味噌になりますが、ロンドン五輪(2012年)の時にパナソニックがトップスポンサーとなっていて、私はその担当でした。

 野球、ソフトボールの正式種目復活の話をした時に、当時、競技担当のティモ・ルメ、並びにピーター・ロゲIOC会長から問題点を3点指摘されました。

オリンピックはプロアマ問わず世界最高を競う催し。しかしながら、野球でいえば、

 まず第1に、メジャーの主力級が出ていないこと。

 第2に、そのメジャーがドーピング問題についてクリアなスタンスを取っていないこと。当時はそう思われていました。

 第3に、あえて言えば試合時間が長すぎること。

 それはあるものの、その問題点をクリアした上で、可能性として男子の野球、女子のソフトボールを1つの種目としてやるとすれば、正式種目となる可能性は残されている。以上のようにトップスポンサーの責任者に対するセールストークを加味してもそういう見解でした。

 私は後のWBSC(世界野球ソフトボール連盟)会長になるリッカルド・フラッカーリ氏に「IOCが試合時間が長すぎるといっている。オリンピックだけは、ソフトボールと同じ7回制を導入してみてはどうですか」と提案したことがあります。会場を同じにして、日程をずらせばコストも抑えることができます。そこが検討のスタートだったと思います。猛暑や選手の健康配慮とは、次元の違う理由です。限られた日程で行われるオリンピックで試合時間短縮のために検討された結果です。国際大会でやっていることと甲子園の課題を一緒にしないで頂きたいと思っています。

——— 7イニングは選手の健康状態に配慮した施策だと言われていますが、あまりデメリットが語られていません。監督が考えるデメリットは何でしょうか。

鍛治舎監督 第1に、試合の連続制が失われることですね。これは意見として、よくいわれています。

 高校を出れば、いきなり9イニングになり、競技レベルが一気に上がるなかで、大学、社会人、プロ野球、独立リーグ、メジャーと多岐に分かれる野球界に放り出される。この7イニング制への改正は、選手の野球の連続性と将来にわたる愛情とを持ってご判断頂きたいと願います。

 新基準バット導入も同じ判断だと感じます。高校野球だけ、導入しても意味がない。合成でも良いから安価な木製バットが開発されればですが、それに切り替えた方が将来を見据えても選手にとっては有難い配慮となります。

 その木製バット使用時だけ、滑り止め使用不可というルールも現場にとっては不可解に感じている関係者も多いのではと危惧します。

 第2に、手元に今年のセンバツ出場校32校主将アンケート結果があります。7回制賛成0票。反対30票。どちらでもよい2票。

 監督にアンケートしても同じ答えだと思います。現場の意見は総じて反対です。実際に試合をしている指導者・選手ともに、本音では反対の意見を切り捨てることのないようにお願いしたい。

 加えて申し上げれば、話が戻りますが、高校サッカーの試合時間は、基本的に40分ハーフの計80分。ハーフタイムは10分。夏場のインターハイは35分ハーフの計70分を採用。冬の全国高校選手権では、準々決勝まで40分ハーフで行われ準決勝よりプロと同じ45分ハーフとなっています。

 それを野球に応用するならば、選手への健康配慮を鑑みて、100歩譲って、季節を踏まえてセンバツ9回制、選手権7回制で、いずれも時間制限あり適用とすることも、妥協案として議論すべきだと思います。

選手が伸びる時期は様々。進路設定も飛躍のために大事

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