18日に開幕する第97回選抜高等学校野球大会で初出場を果たした千葉黎明は、大会4日目の第3試合で名門・智弁和歌山と対戦する。千葉黎明の野球は他校の指導者から「質の高い野球」と評される。昨秋は相手の隙を逃さない走塁、堅い守備、ライナー性の打球を広角に打ち分けた。着実に点を積み重ね、複数投手で逃げ切る試合運びを見せ、初の千葉県大会優勝をはたし、さらに秋季関東大会でもベスト4入りした。中央学院、専大松戸、拓大紅陵、山梨学院と近年、躍進を見せる強豪校に勝利を収めて甲子園を掴んだ。
そんな野球を作り上げたのは中野大地監督。拓大紅陵出身の中野監督は現役時代、04年のセンバツにも出場し、卒業後は明治大、日産自動車、JFE東日本とエリート街道を歩んだ。
練習、練習試合取材から見えた千葉黎明の野球に迫った。
千葉黎明は野球の本質を知り、準備が最重要
情報に溢れている現代の野球では、さまざまな「遠くへ飛ばす打撃フォーム」「球速アップの手法」がネット上で公開されている。そんな情報に選手は飛びつきやすいが、千葉黎明はその流れにとらわれず、野球脳を強化する方向へ専念してきた。中野監督は準備が何より大事だと語る。
「入学してきた時、選手たちに我々のスローガンを伝えるのですが、野球の魅力は個々の技量が劣っても、対等に戦うことができるスポーツであることです。速いボールを投げること、遠くへ飛ばすだけではなく、それ以外の部分を強化することによって、チームが束になって戦うことができます。特に高校野球の場合、お互いに未熟な選手同士の戦いですので、いかにアウトカウント、イニング、ケースを理解した上で戦うことができるか。我々は『質の高い野球』を求めていますが、それを実現するには、野球の競技の本質を知り、状況を判断して戦うことだと思います」
こうした考えは中野監督が拓大紅陵時代、計9回の甲子園出場に導いている名将・小枝守監督から教わったものだった。
「恩師である小枝監督に『勝は知るべくして、なすべからず』という言葉を学びました。この言葉は選手たちに問いかけていますが、勝ちたいと思うだけでは勝てるものではありません。『勝てる環境を作り、勝てる動きをしよう』と投げかけています。それは生活や、相手を思いやるスポーツマンシップの精神、打ったあとにアウトと思ってもしっかりと一塁を駆け抜ける、攻守交代の全力疾走も入ります」
今年の選手たちは中野監督からも理解力が高い選手が多いと評価する。
「野球に対する理解力が高い選手たちが多く、近年でもかなり優れています。こちらが伝えたことについての吸収力がとてもいいですね。これは卒業した3年生たちがしっかりと基盤を作ってくれた。今の主力選手は当時からベンチ入りしている選手が多かったので、その流れを引き継いでいると思います。
主将・山本(大我)を中心に、他の選手たちも理解して、試合をしていく中でどうすればいいか。その対応力はあります。対応力が高いことはいろんな試合に動じずに戦えるので、秋は劣勢の中でも戦えていました。それができるには、常に練習の中で問いかけをしながら野球に対する知識を養っていたのが大きいと思います」
3月2日、千葉黎明は練習試合で銚子商に19対0で完勝した。試合後後のミーティングではさまざまな場面を細かく振りながら、どういうプレーが最善だったのか、選手の心理に踏み込んだ上でフィードバックをしていた。近年は選手の主体性、思考力を問う指導者も増えてきたが、中野監督の場合「考えてプレーができたら、得をする事が多い」とモチベーションを促しながら問いかけているように感じた。
エースの田代 敬祐投手(3年)は中野監督のコーチングにやりやすさを感じている。
「ウチは本当に考える野球を大事にしていて、考えている中で状況形成をして、同じミスをしないように考えて動くことが一番大切なことだと思っています。監督さんからはたまに厳しい指摘もありますが、基本的にはなぜそれが駄目なのか、全員が根拠をしっかりと理解して前に進むことが大事だとおっしゃってくれているので、監督さんの問いかけは自分たちにとってやりやすいですね」