毎年好投手を生み出す秘訣は「投げ屋」にさせないこと
中野監督が就任してからの千葉黎明は毎年好投手を擁している。22年には143キロ右腕・伊東 賢生投手(専修大)、23年には146キロ右腕・青木 貴弘投手(立正大)、24年には143キロ右腕・三田村 悠吾投手(明治大)と続けて140キロオーバーの投手を育成し、今年もエース・田代 敬祐投手(3年)は最速142キロを誇る。ただ、中野監督は「投手については、ストライクがしっかりと取れる制球力、さらにはフィールディング、牽制など投手としての総合力を高めることを求めています。良いフォームで球質の良いストレートを投げることは大切ですが、球速にこだわりがないですね」と語る。
投手には「投げ屋になるな」と伝えている。状況を考えず、ただストライクを投げようとすることを「投げ屋」と中野監督は定義する。
中野監督はストライク率の高さを求めている。ボール先行になったとしても、必ずストライクが取れる変化球を持つ必要がある。苦しみまぎれに真っ直ぐを投げることで痛打率が高くなってしまうからだ。そのスキルは普段のブルペン投球でしか磨く場面がない。ただ良いコースに良い球を投げる練習をするのではなく、投手不利のカウントの場面ではストライクを取る練習、2ストライクと追い込んでからは決め球となる練習をしなければならない。
中野監督の教えは、現役時代に組んできた投手のタイプが影響している。明治大時代には元広島の野村 祐輔とバッテリーを組んだ。野村が1年秋だった08年秋には防御率0.00を達成したが、そのときの捕手が中野監督だった。さらにJFE東日本では元DeNAの須田 幸太投手とバッテリーを組んで、10年には都市対抗ベスト8に勝ち進んでいる。優れたコントロール、投球術を持つ投手のすごさを中野監督は熟知しているのだ。
エースの田代
もちろんフィジカルトレーニングをして、強いストレートを投げるための練習をすることは否定しない。これは第一段階。打者を抑えるために、実戦に即した投球練習は第二段階として、スキルアップすることを求めている。
今年の千葉黎明の投手陣は田代のほかに、130キロ後半の速球を投げる左腕・米良 康太投手(3年)、右スリークォーター気味から最速143キロを誇る岩下 竜典投手(2年)、190センチ左腕・飯高 聖也投手(2年)がメインだ。この4人にはそれぞれの個性を活かす指導をしてきた。秋不調に終わった田代については、「秋はずっと調子が悪かったので、1回良いフォームに戻す作業をしています。球の強さを出せるように指導しています。フィールディングどうこうよりも、球の質を上げることにこだわっていました」と修正をメインにやってきた。実際に田代は手応えを感じており、2日の銚子商戦で最速137キロをマーク。甲子園まで状態を高めれば、140キロ台は期待できる。秋、26.2回を投げ、防御率2.03と力投を見せていた米良は総合力アップを求めた。
「すべてにおいてまだまだです。フィールディングも鍛えて、制球力、ピッチングなど実は課題が多い」と中野監督は言うが、米良は銚子商戦で3回無失点の好投を見せ、仕上がりの良さを見せている。
190センチの飯高は魅力的な素材だ。体重は70キロで、ストレートも常時120キロ台とあまり速くない。角度のある速球とカーブと緩急を活かして秋の大会で好投を見せてきた。
体重を大きく増やして、球速アップを求めたくなるタイプだが、中野監督はあえて急激な肉体改造はさせずに、地道にレベルアップをさせている。
「140キロ以上のストレートを投げさせるような育成はさせていません。彼については高校3年間で、基礎的なところをしっかりと身につけるべき時期だと思っています。コントロールがまだまだですし、今の球速、持ち球の中で、どう抑えるのか、制球力を高めてピッチングを覚えた方が良いです。そういった基礎をつけないまま、急激にフィジカルアップを求めると、投球が崩れるリスクがある。もちろん同時進行で体を少しずつ大きくしていく必要はありますが、彼の肉体の成長度に合わせてピッチングを覚えていったほうが良いと思っています」
143キロ右腕の岩下は「独特の球筋を持っていて面白いタイプ」と指揮官は評価。現在は「彼も球質向上。制球力など彼の強みをしっかりと伸ばしてあげている段階です」と育成プランを語る。2日の銚子商戦では2回無失点に抑えた。