<春季東京都高等学校野球大会:府中東3-2早大学院>◇8日◇3回戦◇コトブキヤスタジアム

 背番号5ながら、投手も兼ねる府中東の齋藤 拓真(3年)は、6日の立正大立正戦で144球を投げて完投している。五江渕 好正監督は、背番号1の池田 亮太(3年)の先発も考えたが、齋藤が登板に意欲を示し、捕手の小野 駿之助(3年)も、齋藤の方がいいと考えていたこともあり、中1日で、齋藤は先発のマウンドに上がった。「疲れはありましたが、中1日で、いい調整ができました」と齋藤は言う。

 3回戦の相手は早大学院。秋季都大会ではベスト16に進出し、今大会ではシードされている。府中東にとっては、格上の相手だ。

 1回裏、早大学院の1番・福成 海帆内野手(3年)の遊ゴロを府中東の遊撃手の諸根 一冴内野手(2年)がエラー。そのうえ無理に一塁に送球したが、悪送球になり、福成は労せずして二塁に進み、5番・小西 潔尚捕手(3年)の二塁打で、早大学院が1点を先制する。2回裏、早大学院は、相手の野選などで1点を追加する。序盤の展開をみると、早大学院がコールドで勝ちそうな流れだった。それでも府中東は、失点を1点ずつに抑えたことで、反撃に転じる。

 3回表に2つの四死球に内野ゴロ2つで1点を返す。なお二死二塁から5番・髙橋 楽羽外野手(3年)の左前安打で二塁走者が本塁を突いたが間一髪でアウト。多少ギャンブル的な走塁であったが生還できず、1点差にはなったものの,、まだ府中東にとっては厳しい状況であった。

 けれども、府中東の齋藤が3回以降は安打を許さず。テンポの良い投球をする。5回終了後のグラウンド整備が終わった6回表、一死後、この試合は三塁手で出場している背番号1の6番打者である池田が右前安打で出塁すると、7番・小野が中前安打で 一、二塁とする。8番・北山 快音内野手(3年)は三直に倒れ二死となったが、続く9番・原 佳吾内野手(3年)がレフトオーバーの二塁打を放って2人が生還。府中東が逆転に成功した。原の快打について五江渕監督は、「練習試合でもみたことがありません」という当たりだった。ただ内角の球は腰をうまく回転して打てば、打球が思いのほか飛ぶことがある。9番・原の二塁打は、そうした感じの打撃であった。

 リードを得て齋藤の投球のテンポはますます良くなり早大学院としては、「はまった」ような状況に陥った。結局齋藤は9回を完投して、投球数は118、被安打4、四死球5,奪三振は3、失点2、自責点1という投球内容だった。

 府中東は1年半前にグラウンドの改修拡張工事が終わり、以前は70メートルほどだったグラウンドは、91メートル×108メートルという広いグラウンドになった。他の部との共用とはいえ、都立校にしては恵まれた環境にある。練習は1日2時間だけだ。そうした中で五江渕監督は、「フリーバッティングはしない」という方針だ。基本的に走者を置いた実戦形式の打撃で、打撃練習をしながら、守備も鍛えた。この試合でも、1回、2回に失点した後は、決して華麗ではないものの、堅実な守りで早大学院の反撃を防いだ。

 また府中東は秋季都大会で、関東第一と対戦し、1-7で敗れている。それでも「関一と試合をした経験は大きかった」と五江渕監督は言う。全国レベルの強豪と対戦したことで、選手の意識も変わった。

 三塁手と二刀流の活躍をしている齋藤は、この冬モーションの時の足のあげ方を変えた。従来は足を上にあげるイメージであったが、この冬、斜め後方に上げるようにした。「これで、腰の回転運動が強くなりました」と齋藤は言う。そうした工夫がこの春、強豪私立相手の2試合連続完投につながった。

 府中東の勝ち方は、「ミラクル」という感じがする。その「ミラクル」は、広くなったグラウンドで、考えながら練習をした成果だ。