選手育成の裏付けとなる

定点的に計測することで、チームの強化に繋がってくることが見えてきたわけだが、選手個々の育成プランでも同じことが言えるそうだ。

「以前、私は総筋量500キロ程度で入学してきた新1年生に出会ったことがあります。どこの1年生も、入学時は低い数値になりがちですが、その子は平均より低かったです。なので、指導者たちは『地元の少しすばしっこい選手が入学してきた』くらいの認識でしたし、その子にも『総筋量が500キロくらいしかないよね。だからもっと力を付けて、数字を伸ばしていこう』と話をしたそうなんです。
長年の実績でNPBにドラフト指名される選手は、総筋量1000キロが基準になっているのはわかっていましたので、そこを目指して高校生活を過ごしました。そうしたら結果的に、総筋量500キロ近く伸ばして、1000キロくらいにして高卒ドラ1でNPB入りを果たしました。普通だったら、1年で100キロくらい、2年半で200キロちょっと増やすのが平均のところ、倍以上も成長してプロ野球選手になりましたね」(田月さん)

現在はNPBの世界で奮闘中だが、こうした実績はチームにとって成功事例として残る。チーム作りだけではなく、選手育成にとっても計測結果が裏付けとなって、トレーニングメニュー、プログラムが引き出しになっていくのだ。

大事な行事として計測をやってほしい

体力測定をすることで、データが溜まっていき、ゆくゆくはチーム作り、選手育成の指針・基準になっていく。そこに意義があることは見えてきた。ただ、それは長期的観点であるため、一番は「数値が出ることで選手たちは納得できる」ことにメリットがあることを田月さんは話す。

だから、「目的によりますが、体1つあれば計測できることはやってほしい」と田月さんは全国の球児たちへメッセージを送る。

ただ、体1つで計測出来ることにはどうしても限界がある。仮に機材があるといっても、学校毎で環境はバラバラ。トレーナーの有無もあるが、実際に計測する際の方法や結果の活用方法など、トレーニングに対する意識が高まったとはいえ、懸念点は多い。

その点、ゼット測定は計測機器を持ち込み、当日中に計測とフィードバックまで実施。計測方法も、30年の実績を生かして正確に、全国統一した測定法で実施出来るため、計測結果も正確に算出することが出来る。

加えて、計測項目を21個に分けていることも、大きなポイントである。
「大きく分けると4つに分けていて、筋力・スピード・柔軟・体幹に分類しています。そこからさらに分類して、計21項目を測定しています。
どの測定項目も大事ですが、項目毎に結び付きがあったりするんです。例えば、筋力の種目はNPB級、しかしまだ野球のプレーにその筋力が上手く繋がってきていない。といった選手がいたとします。そんな時に私たちは測定の種目では柔軟性や体幹性のメディシンボール投げの種目に目を向けます。メディシン投げは力を上手く伝達できているかの連動性、力を伝えていく中で、体を動かす可動域に問題がないかを柔軟性の種目でチェックをします。そこに問題があり改善出来れば高い筋力がプレーに繋がるきっかけになる可能性がある。項目が多くなれば見えてくることも多くなると思うんです」

21項目という数字だけを見ると、測定項目が多いように見える。ただ、30年間の実績があるからこそ、1つ1つの測定項目との相関関係や根拠に踏まえて、数字を読み解いて正確なフィードバックをしている。技術指導はやっていないものの、全ての土台となるフィジカルに特化して、本当に野球に必要な体力を測定できる。長年積み重ねてきたデータとともに、ゼット測定だからこその強みとなっている。

だから現場の反応を見ていると、「大事な行事として捉えているチームが多い」と田月さんは嬉しそうに話す。もっと言えば「チームスタッフの1人として、迎え入れてくれるところもあります」と欠かせない存在にもなっているようだ。

短期的な目線で見れば、自分たちのモチベーションアップ、さらには立ち位置を把握することでの練習の効率化。長期的な目線で見れば、チーム作りや選手育成の引き出しを確立していくためにも、体力測定の意義は大きい。

さらなる成長を目指すチームは、是非実施して欲しいが、そのなかでも21項目にわたる細やかな測定を生かした多角的分析によって、正確に結果を導き出せるゼット測定も、気になるチーム・球児は検討してみて欲しい。

ただ、既に独自に測定を実施するなど、意識の高いチームは取り組んでいるケースもあるだろう。実際、多くのチームに訪問すると、表にまとめて掲示しているチームを多く見かける。だが、それをランキングとして表示して、各選手たちの立ち位置を把握するだけで、「パフォーマンスにどれくらい結び付いているのか」というところまで深く考えられていないケースが見られる。

とはいえ、フィジカルとプレーのつながりは強い。そこを理解できれば、さらに練習効率は高まることは間違いないし、自分の強み・弱みなどの自己分析も明確になるだろう。次回は、測定結果とプレーがどれだけ関わっているのか、関係性の強さを専門家の声とともに紹介したい。

【フィジカル強化でかっ飛ばせ特集】のアーカイブはこちら
第1回:270チーム以上で実施!メジャーリーガーも経験した、30年以上の歴史もつ体力測定・ゼット測定が凄い...
第2回:高卒ドラ1選手は500キロ弱増量!急成長する選手・チームが示す、体力測定の重要性ってナニ?!
番外編:令和の高校野球に「体の強さは必要不可欠!」 浦和学院の青年監督が考える、酷暑、新基準バットに適応する条件
「勝つか負けるかの世界」で求められる体 30代の青年監督が語った、夏に勝てる必要条件
海外の高級車みたいじゃなくて… 浦和学院の青年監督が考える、令和の選手に求めるフィジカル
NPB指名クラスのじゃないと「全国で勝負できない」 浦和学院が目指す体づくり
ドラフト候補もかつては「体が弱かった」…浦和学院の青年監督が実践した常勝チーム、逸材の育成プラン