7月に各地で開催されていた地方大会も、無事に全大会が終了。甲子園に勝ち進んだ学校が出揃った。出来る限りベストなコンディションで、夢舞台で熱戦を見せて欲しい。

一方で多くのチームが秋、その先にある甲子園を目指して、新たな一歩を踏み出している。もう一度、心身を1から鍛え直す日々を過ごしていくことになる。

特に近年は酷暑と称されるほどの暑さの中で、選手たちは戦わざるを得ない。いかに暑さに負けない体力を付けるか。新基準バットの導入も相まって、日々のトレーニングの重要性は高まっているところだ。

通年でのトレーニング実施であったり、トレーナーによる指導だったりと、各チームが工夫を凝らしている中、ある体力測定が人気を博しているという。

ドラ1選手、さらにはメジャーリーガーも経験!

各地の学校に取材で行くと、様々な計測結果とランキングが記載された掲示物を見かける。そこに書き記されているのが、人気の体力測定であるゼット アスリートテストである。

身長・体重はもちろん、スイングスピードなどのスピード系、ベンチプレスなどの筋力、さらには柔軟など21項目にわたる測定を通じて、選手たちの体力データを計測。そのデータに基づくフィードバックまでを1日で実施する。通称、ゼット測定としても知られている体力測定である。

担当者の1人である田月裕也さんによると、「30年以上の歴史がありますが、いまでは高校だけで270チーム近くが受けて頂いています」とスポーツメーカーでありながら、道具とは違った形で選手たちを長年サポートしてきているようだ。

過去には甲子園優勝投手、NPBに指名された逸材、さらにはメジャーでも活躍した選手など、超一流選手たちも受検したというゼット測定。基本的には年2回、オフシーズン前後で実施することが多いそうだが、「ここ5、6年くらいで、新チーム発足時ないし夏の大会前にも実施するケースが増えてきました」という。

年3回に分けて実施し始めるようにトレンドが変わってきているところからも、このゼット測定の存在価値は、年々高まっていきそうだ。

NPB入りの基準値は1000!30年以上という歴史こそが財産

とはいえ、近年はトレーニングのみならず、計測データを蓄積していくチームが増えてきた。指導者はもちろん、選手たちも感度の高まっているなかで、ゼット測定のどこに惹かれて、認知度を広めてきたのだろうか。

「一番の強みは、30年以上で積み重ねたデータかなと思います。これまであらゆる選手に受けて頂き、膨大なデータが積み重なってきたことで、明確な基準で比較・評価できる事は長年に渡って続けてきたからこそだと思います。
また、多くの学校が受けて頂いているので、学校ごとの種目別のランキングを見て頂けますし、計測項目もはじまった当初からそれほど大きく変わっていないので、30年間での数値の変化・経過も見えてきます。ですので、チームごとで歴代の先輩たちと比較できるのはもちろん、野球界全体の変遷が見えてくるところも、ゼット測定ならではだと思います」(田月さん)

一例として、ベンチプレスをはじめとした筋力測定で計測した数値全てを合わせた、総筋力と呼ばれる独自の用語がある。この数値が1000を超えてくると、ドラフト指名された過去測定を経験した選手達と同等のポテンシャルがあるというのが、長年の計測データから傾向が出ているそうだ。ある種、選手たちにとっては、現在地を知ることができる1つの物差しといったところだ。

他にも、いくつもの強みがあるからこそ、「自分たちの立ち位置が見えてきた」であったり、「トレーニングへの意識が変わりました」と話したりする選手・指導者が現場では多く聞かれるという。

トレーニングというと、どうしても厳しい、辛いイメージがあり、あまり進んでやりたがらないケースもある。そんな選手たちにとっては、モチベーションアップの一助になっていることは、間違いなさそうだ。

選手たちの本能をくすぐり、人気に火がついた

そんなゼット測定、生まれたのは30年以上前のこと。現在ほどトレーニングのデータやメニューが豊富に揃っていたわけではないし、野球における重要度が高かった訳ではない。そんな時代背景があったにも関わらず、広げることができたのは、今と変わらぬ選手たちの本能に刺さったからだと、田月さんは分析している。

「たしかに当時は厳しさが求められる時代だった、と先輩方から聞いています。運動生理学も今ほど注目されていなかったと聞いています。
ただ、当時は科学的にやろうと動き出していた時代背景がありましたし、数字がその場で計測されることに、選手たちは面白さを感じてくれたんですよね。だから、学校でランキングを作ったことも良かったと聞いていますし、270校近くで実施しているからこそ、出来ることだと思います」

ただ、どうして計測をすることになったのか。そのはじまりを詳しく聞かせてもらった。
「トレビックという会社にいる椙棟 (紀男)先生と始めたことなんです。
椙棟先生は社会人野球、さらには阪神タイガースにも短期的にゼット測定の原型となる体力テストやトレーニングの指導をしていたんです。そこに、弊社のスタッフがキャンプで椙棟先生にお会いしたことで、『一緒に何かできないか』というところから始まったそうなんです」(田月さん)

当初は筋力やスイングスピードなどの瞬発系といった8つほどの計測だったが、野球に必要な項目を考え、トレーニングを学んで追加したことで、現在の形を確立。測定項目にあるスクワットやレッグカール、レッグエクステンションのように、一見すると同じ下半身を計測しているように見えても、厳密には目的をもって計測にあたっている。

そうしてあらゆる角度から、選手の体力を測定・分析することで、面白い結果が見えてくると、田月さんは話す。
「あるチームに椙棟先生がお邪魔した際に、ベンチプレスが凄いのに打撃で結果が出ない選手と、ベンチプレスが大したことなくても打撃が良い選手がいたそうなんです。その原因を体力測定で調べたら、どうやら胸筋と背筋のバランスに違いがある事に気づかれた。
下半身についても、足が速くても怪我する選手は、足の筋肉の前側と後ろ側のバランスが崩れている傾向が見えてきたと。そういうふうに、あらゆる角度から計測することで、ケガのリスクも見えてくるのは、面白いですよね」

目標、理想の実現へ!ゼット測定を使ってみよう!

体力測定としてはもちろん、ケガのリスクを数字で可視化できるという当時数少なかった取り組みは、徐々に広がっていき、現在に至った。ただ、高校球児を取り巻く環境は急激に変わり、トレーニング法の充実にしかり、データに対する感度にしかりと、各チームが独自に取り組める時代にはなってきた。

加えて2024年3月から新基準バットが導入され、飛びにくくなったバットに対して、自分たちがどう適応していくか。考えた末に、多くのチームがトレーニングに力を注いでいる。トレーニングの重要性は、今後益々高まっていくに違いない。

田月さんも「年々、フィジカルの数値は上がっているのはデータでも出ている」とトレーニングの重要性を十分理解しているものの、やるべきことを変えるつもりはない。

「まず正確に計測してあげることは絶対に変わらないです。そのうえでチームや選手たちに、どうやって理解させるか。納得させて、トレーニングに対してモチベーションを上げてもらうか。計測されたデータを、出来る限り正確に読み解いて、アウトプットする。トレーニングに対する知識と選手の意欲を高めるコミュニケーションが、今後は更に求められると思います」

故に現在も、「鉄は熱いうちに打て」という様に、計測結果は出来るだけ当日に行う事を原則としており、数値に応じて「フィードバックの内容を変えています」と、選手・チームのトレーニングに対する意識・意欲を変えられるように取り組んでいる。

だからこそ田月さんは、「目的意識を持っているチームならば、レベルに関係なく受けてもらえたら嬉しいです」と、少し笑顔をのぞかせながら語ってくれた。

新チームであれば、まさにこの時期は1年後の目標を定めたうえで、練習が始まる。目的をもって、秋季大会に向かっていくことになるだろう。そんな今だからこそ、ゼット測定を活用することは、目標達成に対して大きな力になってくれるに違いない。

掲げた目標を実現するために、まずはゼット測定を通じて自分たちの現在地を把握してはどうだろうか。

ただ現代は、あらゆるところで体力測定を実施している。もっといえば各チームで設備さえ整っていれば、ある程度ゼット測定に近いことをやることができる。フィジカルの重要性が高まったことで、ライバルとなる競合が増えている中で、ゼット測定は何を強みにしているのか。もっといえば、体力測定をしなくても、トレーニングすることは出来るなか、実施する意義はどこにあるのか。次回は現場で多くの選手たちと交流をしているゼット・田月氏に、引き続き専門家としての意見を聞かせてもらった。

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