2024年の東京六大学と言えば、明治大・宗山塁内野手(広陵出身)だろう。2024年3月に開催された侍ジャパンの強化試合に飛び級で招集された逸材で、野球関係者ならば誰もが知っている。

だが、その宗山を抑えて東京六大学の現役ホームラン王に君臨する逸材を知っているだろうか。

取材時点では、現役唯一の2桁本塁打の12本塁打をマーク。成績を見れば間違いなく、現在の東京六大学NO.1強打者。グラウンドに立っていても、周りに比べて1人だけがっちりした大きな体格。思わず、「(体つきが)1人だけプロみたいだな」とこぼしてしまったほど。佇まいからスラッガーの雰囲気が漂っていたのが、早稲田大の背番号1・吉納翼外野手(東邦出身)だ。

折れることを恐れていたら、多分一生上達しない

「蛭間(拓哉)さんの13本塁打は目標にしていて、『このリーグ戦で超えることが出たらいいな』と思っていたので、開幕節から3本出て、明確に狙える位置になったのは良かったです」

自身と同じく、当時は背番号1を付けて強打の外野手として早稲田大を牽引した先輩・蛭間拓哉外野手(現西武)のリーグ通算13本塁打まで、あと1本に迫ったことに対して、吉納はどこか嬉しそうな様子だった。

吉納に対して、NPBのスカウトは現時点で既に注目している。広角に長打を飛ばすバッティングに惹かれた球団がマークしており、今回のドラフトでも指名の期待がかかっている。そんな吉納のように、どの方向にも飛ばせるバッティングは、野球人であれば誰もが一度憧れるだろう。果たして、NPBのスカウトもチェックしたくなるようなバッティングを、どうやって木製バットで実現しているのか。その始まりは、母校・東邦時代にさかのぼるという。

「1年生の秋、大会期間中に森田(泰弘)監督から『構えた時、頭の先からお尻の下まで1本の串が刺さっているイメージで、コマみたいに回って振れ』って指導してもらったんです。もちろん、変化球で崩されるケースもありますけど、いまもそれをずっとイメージするくらい自分のベースになっています」

吉納の感覚だが、軸足には60%、踏み込む足には40%の重心を乗せる感覚でスイングをすることで軸を確立して、センバツ優勝に貢献したわけだが、それだけではない。

「実は打撃練習から木製バットを使って練習するようにしていたので、木製バットを使っている時間の方が長かったんです。そのなかで飛ばし方を自然と覚えた感じなんですけど、当時はとにかくシンプルにバットを強く振ること。それをひたすら数多くこなしたから、身についたと思います。
やっぱり、一定以上のスイングスピードがないと、ボールに対して勝負できないとチーム全体では考えていたので、形はどうであれ木製バットを使えるように、連続ティーや素振りといった練習をやっていました。そのなかで芯を外す痛みは多少ありましたけど、絶対に通る道だと思っていたので嫌がることなく、むしろ木製バットで飛ばすことの楽しさを追い求めて練習しました」

折れてしまえば、それで終わりの木製バット。しかも手軽に購入できるわけではないことは、吉納も「もちろん安いものではない」と語っており、十分わかっている。それでも後輩に向けて、こんなメッセージを送る。

「折れることを恐れていたら、多分一生上達しないと思いますし、バットを折ったことでわかることもあると思うんです。
自分の場合、ティーバッティングからしっかり芯で捉えること。単純ですが、そこから意識しました。自分の中では、ティーバッティングから徐々に距離が伸びていって、バッティングになると思っています。だから普段の練習から、ティーバッティングでしっかり100%の状態を作ってからフリーバッティングを取り組めるように準備をするのはもちろんですし、木製バットだからって変に意識せず、恐れることなく、金属と同じように使う方が良いと思います」

練習に対してもかなりこだわりを持っている吉納。「小宮山監督からも、『常に準備を怠るな』と指導されていますから」と語ると、続けて練習に対する自論を語る。

「正解はたぶんないと思いますので、全部大切だと考えてやっていますけど、続けることが大事だと思うんです。結果が出たから練習を辞めて良いわけではないし、調子が悪い時だけやり続ければいいわけではない。結果にとらわれるんじゃなくて、継続することが大事であり、小宮山監督の『常に準備を怠るな』っていう言葉に繋がると思うんです。
あと自分の場合、『プロ野球で活躍する』という明確な目標があるので、それなりの覚悟と自分の信念をもってやらないといけないので、練習にはこだわってやっています」

独占公開!現役本塁打王を特別に語った、木製バットで飛ばすコツ!

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