何よりも身近な商品だったバッティング手袋

筆者が初めて使ったのは小学4年生。誕生日に買ってもらった白と青の2色でデザインされたバッティング手袋を左手だけ付けていた。カッコよさで選んだバッティング手袋だったが、当時は付けただけ上手くなった気がしたし、私の気持ちが高ぶったことを覚えている。

それからというもの、バッティングをするときは必ず身につけてバットを振っていた。私にとってグラブやスパイクと比べると、身近なアイテムだった。

NPB約40%も使用する人気商品

そんなバッティング手袋、非常に種類が多いが、NPBで約40%が使用しているという人気商品(*ミズノ調べ)が、ミズノ社のシリコンパワーアークシリーズである。

シリーズ名の通り、手の甲に装飾されているシリコンがトレードマークとなっているシリコンパワーアークシリーズ。もう30年以上続く人気シリーズは、2024年にシリコンパワーアークDIを発売している。

完全リニューアルとなる今回は、小指と薬指は指先までシリコンがあり、手の甲の部分で、2本の指が連携している。

また中指と人差し指についても、手の甲の部分では連結しているのが、大きな特徴になっている。

実際に使ってみると、シリコン部分が指に対してテンションをかけており、他にはないフィット感が実現している。手首の部分にも異なる2つのテンションがかかるように工夫を凝らしている。ミズノ最高峰ブランド・ミズノプロにふさわしい商品となっている。

進化したシリコンの背景

企画担当として携わっている金光隆之氏は、「今回のモデルは契約選手や店頭からも評価いただいていますが、もっといろんな人に感じてもらえたら嬉しいです」と新作に対しての手ごたえを感じるとともに、より多くの選手に使ってほしいことを願っていた。

金光氏が担当する前から存在していたというシリコンパワーアークは、「ここ10年ぐらいでNPBのシェアも大幅に増えています」と30年以上の長い歴史のなかでも、ここ数年で人気急上昇している。

値段にすると税込8,800円と、手軽に購入できるわけではない。しかし、人気を集めているのは、それ相応の機能があるからだ。

「パワーアークは人とバットを繋ぐ、パワーをバットに伝えることをコンセプトにしたバッティング手袋です。
というのも、バッティング手袋に求められる機能は2つあると考えており、そのうちの1つがボールを遠くに飛ばすのをサポートすることだと思っています。そのためにはバットに対してどれだけ力を伝えられるか、ということでシリコン形状がポイントであるということで、2009年ごろから中指から小指の3本に対してシリコンを付けるようにしています」

シリコンパワーアークのコンセプトや、シリコンを使っている背景はわかった。しかし、どうして中指から小指の3本にシリコンを装飾することが、パワーを伝えることに繋がるのか。

「バットを振る際、主に中指から小指の3本を使うと思うんですが、ミートした瞬間にボールに押される際に、しっかりと押し返すためです。
おしくらまんじゅうをイメージしていただくと良いのですが、押されたら潜在的な反応でそれ以上の力で押し返しますよね。それを利用して、バッティング手袋にシリコンを付けることで、ボールに押されることでシリコンにテンションをかけて、押し返すときにバットを握りこめるようにする。そうやって力を伝えることで、飛ばせるようにしているという仕組みです」

こうした理由から、パワーアークは中指から小指の3本に対してシリコンが配置。特に2024年モデルは、前回のモデルから変更して中指と薬指を連結させずに、分割させた。前回は「小指の力が物足りないので、中指まで3本すべて繋げることで強く握れるようにしていた」というが、今回の開発をするにあたり契約選手たちからの意見を聞いたうえで、すべてを連結させずに、分割させるようにデザインした。

その代わりに、力が入りにくいとされる小指や薬指に対しては、指先までシリコンを伸ばし、手の甲の部分も連結させた。一方で中指は力が入れやすい分、第2関節あたりまでと短めにしている。

さらに、シリコンに対してミリ単位でこだわりを詰め込んだ。
「シリコンの自体の硬さや高さをどうするか。開発メンバーやデザイナーと協力しながらパーツ毎に高さをミリ単位で話し合いましたね。
少しでも尖っていると品質に影響が出るなど、色んな条件がある中で作っていますので、最初は担当者と何度も話し合いもしています。なので、サンプルを作るまでに1年かかっているんですよ」

独自技術にロジン成分...こだわりがとことん詰まっている

必要なところに必要なだけ力をかけられるように作られた今回のシリコンパワーアーク。ここまではシリコンにばかりフォーカスしてきたが、バットに力を伝えるために、金光氏が取り組んだこだわりは他にもある。

「手首の部分もピタッとはめて欲しいと思っておりまして、ベルト部分はミズノで独自に開発したデュアルテンションベルトを採用しています。
両端は弱く、中央は強いテンションがかかるように設計したベルトですが、手首をしっかりと固定させることでスイングが安定し、飛距離を伸ばすことを目的として、中央はテンションを強くしています。ただ、両端も同じ強さにしてしまうと、つけにくかったり、感触は悪くなってしまいます。なので、両端については中央に比べるとテンションを落として、使いやすさもあるバッティング手袋にしています」

さらに、手のひら部分についても、金光氏はこだわりをもって企画を進めていたという。
「天然皮革を採用していますけど、特殊な加工をしてロジンの成分を含めるようにしてもらっています。やっぱりバッティング手袋に対して、使いやすさという要素も大事な部分なので、そうした加工をしています。型押しについても、個体差が出やすい天然皮革にするからこそ、厚みがある程度均一にあるので、安定した耐久性とグリップの効き方が得られるようにしています」

ネクストバッターズサークルでバット、ないしはバッティング手袋に滑り止めを付けている選手は多い。ルーティーンとしてやっていることもあり得るが、今回のシリコンパワーアークはそれほどつけなくても、ある程度サポートしてくれるのは間違いなさそうだ。

出来るだけピッタリとしたサイズ選んでほしい

シリコンにはじめ、非常に多くの機能が詰め込まれているシリコンパワーアーク。しかし、バットを振り込むほどに消耗するアイテムでもある。金光氏はそれについてもこう話す。

「私も最初はバッティング手袋=消耗品、アパレル品に近い印象を持っていたのが正直なところです。しかし、取り組んでいるうちに、選手たちのパフォーマンスを高めてくれる道具だというふうに意識が変わりました。でなければ、プロ選手も慎重になってバッティング手袋を変えることもありませんから」

金光氏が話したプロ選手のエピソード、詳しく話を聞いてみると、バッティング手袋の重要性が見えてきた。

「今回のバッティング手袋の相談を契約選手にした際ですが、『(今のが)慣れているから、そのままでいいよ』と言われるんですよね。プロの場合、手のひらの素材や型押しの有無、練習と試合、もっというとその日のフィーリングで使い分けるくらいバッティング手袋は大事にしているんです。おそらく自分の手の一部分みたいな感覚なんだと思うので、サイズも2ミリ単位で対応できるように準備をしています。
だから、バッティング手袋を買う時は、できるだけ実際にはめてサイズを確認して欲しいです。そのとき、大きめのサイズを選ぶのではなく、出来るだけピッタリとしたサイズ選んでほしいです。ルーズになってしまうと上手くバットに力を伝えられないですし、革製品なので、使いこんでいくともっと大きくなって使いにくくなると思うので」

今回紹介したシリコンパワーアーク。高価格帯にふさわしい多数の機能が詰まったハイスペックな一品だったが、もっと気軽に使えるバッティング手袋として、ウィルドライブ レッドという商品も販売しているという。

シリコンはないものの、中指から小指3本の部分のみ特別な加工で、滑りにくくしている商品。シリコンパワーアークにも通じる、ボールに力を伝えるために大事になる3本指の使い方を感じることができる。金光氏もおすすめの商品だ。

2024年から正式に採用されることになった新基準バット。打球が飛びにくくなり、各選手が創意工夫を凝らしているところだろう。その工夫の1つに、バッティング手袋をこだわって選ぶというのも良いのではないか。そのときにシリコンパワーアークを選択肢の1つとして、是非検討してほしい。

<詳しい商品情報はこちら>
ミズノプロシリコンパワーアークDI
ウィルドライブレッド