新たな流行を作りそうなトートバッグ

多くの学校がチーム用のバッグとして持ち歩くのは、バックパックかセカンドバッグのどちらか。学校名が刺繍されたひと際大きいバッグをもつ選手たちの姿を見るたびに、当時のことを思い出す。

しかし、なかには見慣れないバッグを持ち歩くところもあることに気が付いた。トートバッグだ。

覚えている限りでは、2019年のセンバツで肩にかけている選手たちの姿を画面越しに見たのが初めてだ。それからごくまれに見かけることが増えたが、基本的に使っているのは指導者。選手が使っている姿は珍しく見えた。

王道のバッグパックに比べて荷物が入るのか。使い勝手はどうなのかと、疑問に思うこともある。今回取材したミズノのバッグの企画・開発担当である篠原果寿氏も「たしかにチームの要素は少ない」と前置きをしつつ、「今もなお指導者は好きな方は多いですが、選手にとっても少なからず需要はあると思います」と話し、目の前に大きなトートバッグを出した。

状況に応じた変幻自在、収納楽々なデザインに

容量は約40リットル。2023年12月に販売を開始した約46リットルのバッグパックに負けないぐらいの大容量だ。

「これまで通り、着替えや教科書はもちろんなのですが、最近はヘルメットを個人で管理するところが増え、学校からはタブレットもしくはPCといった電子端末も支給されるようになってきています。
選手たちの荷物が近年増えてきた傾向があるので、数パターンの使用を考えた中で議論し、約40リットル程度がベストだろうということで決まりました」

とはいえ、容量の大きさや持ち運びのことを考えると、バッグパック型の方が使い勝手がいいように思える。ただ、トートバッグだからこその良さもあるという。

「たしかに、約40リットル程度の容量が大きいバックパックは多いです。けど荷物を立体的に積んでいくので、下の荷物ほど探すのが大変なんですよね。だからこそ、2023年12月に発売した新バッグパックにはサイド部分から荷物が取り出せる設計にしました。ですが今回のようなトートバッグの場合はマチが広く、高さが低いので、大きく開くことで、素早く荷物を出し入れ出来る点が良いところなんですよね」

この良さを生かすため、ファスナーにもひと工夫。「メイン収納を完全に閉じることが出来るようなファスナーを採用すると、開き具合が制限されるため、大きく開くことが出来るファスナーを今回採用しました。アウター類などで使われているようなタイプのオープンファスナーです」と荷物の出し入れを楽にするというところに着目した。また、何も入れていない状態でもガバっと開く自立性にはこだわった。

バッグの内部もこだわりをもって設計。バッグ内に面ファスナーでつけ外しができる仕切りを入れている。簡単に動かせるため、「自分の使いやすいように、バッグの内部をアレンジできる」と好みによって使い勝手よくカスタマイズできる。

さらにバッグ開口部の両サイドにはボタンも付けた。これがあることで、「荷物が少ない時に本体の大きさを絞れる」と使いやすさも加えた。状況に応じて、バッグをコンパクトにすることが出来るのは魅力的なところだ。

他にも自転車で通学する選手のことも考慮してショルダーベルトも搭載している。ただ、このショルダーベルトも手持ちする際に不要であれば取り外しが可能だ。あらゆる場面を想定して使えるスタイリッシュなデザインに仕上げた。

しかも、このトートバックは裏生地にペットボトル7本分の再生ポリエステルを採用するという環境にも配慮した企画がされている。押さえるところをしっかり押さえた商品といっていい。

トレンドである時短を象徴するバッグに

「バットやグラブとは異なり、他の業界にも共通する部分があるバッグだからこそ、あえて多く足を運びました」とスポーツとは関係ないビジネスバッグを店頭に見に行くなど、あらゆる業界からヒントを得ておよそ1年半で販売されることになったトートバッグ。

しかし、需要があるとはいえ、どうしてトートバッグを注力し始めたのか。その答えは野球界のトレンドにあると篠原氏は解説する。

「日本高等学校野球連盟の調査で、練習時間に関するデータが出ていました。その時見たのが、平日練習を3時間以上やっている学校が2018年で約5割だったのが、2023年で約3割。休日練習も5時間未満が半数以上という結果でした。これらのデータから、最近の高校球児は短い練習時間の中でいかに効率よく練習をするかが重要なポイントとなっていると感じました。
そのほか、ピッチクロックやタイブレーク、23年に社会人野球で導入されたスピードアップ特別規定など、野球界全体で「時短」がキーワードになっていると思ったんです。だから、荷物の出し入れという微々たる要素ですが、時短をコンセプトに企画・開発していきました」

トートバッグの形状ならではの特性に加え。大きく開く開口部や自立性、先述したようなオープンファスナーは簡易的な荷物の出し入れを実現させている。まさに篠原氏が掲げていた時短を象徴した仕様である。これまでのバッグももちろん素晴らしいが、このトートバッグはトレンドに合ったものだといっていいだろう。

すでに多くのところから注文が入っているということで、「評判は良いと営業担当から聞いています」と幸先よくスタートは切れている模様。今後、もしかすると球場で見かけることが増えるかもしれない。企画・開発者として篠原氏もワクワクしている。

「高みを目指しているチームや選手は、効率の良い練習を求めていると思いますし、使用する道具も多い傾向にあるかと思います。そんな選手たちに使用していただくのはもちろん嬉しいですが、「これかっこいいな」「これ使ってみたいな」と思ってくれる人が手にしてくれたらと思います。
バッグのみならず、道具は今後も野球発展のカギを握っていると考えております。例えば、そのお気に入りのバッグで早くグラウンドに行きたい、誰かに見てもらいたいなどといった思いが大きくなれば、野球をもっと好きになれるかもしれません。ミズノのこれまでの先輩方がそうされてきたように、今後もとことんこだわった商品を企画することで、選手たちにワクワクしてもらえるようなモノ作りをしていきたいですね」

グラブやバット、そしてスパイクと同じ道具であっても、バッグはそれほど気にしていないかもしれない。しかし、これだけの思いが込められて世に出て行ったバッグは、企画担当者の思いが選手の心にも届くのではないか。

もしお店で見かけることがあれば、是非一度手に取って見てもらいたい。