バッグに求められる容量、そしてステイタス

これまで多くのチームを取材してきたが、近年明らかにバッグパック型のバッグを採用するチームが増えた印象だ。

ある学校では「気候の変化や個人で管理する道具も増えたので、バッグパックの方が荷物を入れられるんですよね」と時代の変化にバッグパックはマッチしていると話す。一方で、ある知り合いの保護者に聞くと「肩掛けタイプのバッグの方が、荷物は入っていたと思います」という声もある。

容量の大きさによる違いがあるとは思うが、バッグに対する声は様々だ。ただ、「公式戦は肩掛けタイプのバッグを使うようにしていたので、それが持てるだけでも嬉しいんですよね」と話す保護者の声もあるように、バッグがある種の名刺、ステイタスにもなっていることは、昔から変わらないことだろう。

新作バッグは驚きの約46リットル。その大きさの理由は?

そんなバッグの企画・開発担当として、ミズノに勤務する篠原果寿氏は、バッグの重要性を強く訴える。

「グラウンドでプレーする時は持たないですけど、移動中などは基本的にバッグを持っていると思います。その時だって選手の体には負担はかかるので、どうすれば負担を軽減できるかといった視点も含めて企画をしています。
加えて通学している高校球児を町で見た時などに『どこのチームだろう』って思ったら、まずバッグのロゴなどを探すことが多いと思うんです。それくらいバッグが持つ意味は大きいと捉えていますし、グラブやスパイク、バット同様に大事な道具の1つだと思って、こだわりをもって取り組んでいます」

こうした思いをもって篠原氏が携わったバッグが、2023年12月発売から新たに発売されている。容量は約46リットルと、「(ミズノのなかでは)本当に大きいサイズです」と篠原氏も話すほど大容量。一般的でも、一泊程度の荷物を収納するのに十分な容量である。

しかし、それほどの大容量にする必要がなぜあったのか。その答えを篠原氏は「新型コロナウイルスは、1つのきっかけになっています」と説明する。

「コロナをきっかけに公衆衛生への意識は確実に高まったと思います。マスクはもちろんですけど、チームで管理していたバットやヘルメットを個人管理にするところが増えている傾向にあるんです。
少し前ではあまり考えられないことですが、特にヘルメットが個人管理になっていることが大きいです。ヘルメットの場合、アゴ部分を守るための防具を付けている選手も近年増えているので、それも含めてバッグのなかに収納できるようにしよう、と考えたら大容量になりましたね」

野球界のトレンドの変化を要因に挙げた篠原氏。しかし、グラウンド外の環境の変化も影響を及ぼしていると語る。

「いまの学生は勉強道具として教科書やノートはもちろん、PCやタブレットなどの電子端末を持ち歩くことも増えているんです。これまでなら教科書とノートだけでしたけど、電子端末も追加されたことで、結果として荷物が増えているんです。そういったこともあるので、サイズの大きいバッグが必要になったんです」

野球道具であればバットやヘルメット、なかには複数ポジションを守るため、グラブをいくつも持っていたり計測機器や打者防具だったりと、個人で持っている選手もいるだろう。加えて、学校生活で必要になったタブレットなど、個人で持ち歩くアイテムが増えた。

これらのことを、仮説を元に調査を実施し、定量的にも傾向をつかんだからこそ、篠原氏は約46リットルという大容量のバッグを開発することにしたのだ。

これまでの野球バッグとは違った雰囲気のカジュアルなバッグを目指して

さらに、篠原氏が新たなバッグに挑戦した理由がもう1つある。

「しばしば、『他のチームが持っていないようなバッグが欲しい』という声があったんです。他のアイテムもそうですが、自分だけのアイテムはやっぱりほしくなると思うので、今回は、いい意味でこれまでの野球用バッグとは雰囲気が違う、カジュアルで普段使いできるようなバッグというものを求めて始まったのがきっかけなんです。そこでまずはこれまでの野球バッグの特徴とはどんなものなのか、ということから考えました」

市場のニーズに応えるために始まっていた今回の企画。その第一歩として、これまでの野球用バッグと違ったデザインを考え始めた。

「所々にゴールドのデザインを入れたり、合成皮革素材を使っていたり、ぽこっと飛び出したようなポケットがついていたり、これまでの野球用バッグの大きな特徴については、市場調査含め、弊社営業担当や現場へのヒアリングでいくつか挙がってきました。
なかでも、今は合成皮革を使ったバッグが多く、この素材も野球用バッグの大きな特徴かと思いました。だから今回のバッグはデニムのような雰囲気の杢柄生地を採用しました。また差し色のゴールド、ホワイトがこれまでの野球用バッグの大きな特徴だということが見えてきましたので、今回単色で出来るだけ統一しようと心がけました」

そのこだわりはファスナー1つとっても同じ。今回はファスナーの引き手部分を新しく採用。従来のゴールドからシックでツヤのない黒に変更するなど、これまでにないような工夫も積極的に取り入れた。

これまでの野球用バッグとは少し違った雰囲気のバッグを実現するために、「出来ることは全部やりました」と篠原氏も胸を張る。その過程では、こんな取り組みもしたという。

「スポーツ以外のところからもヒントを得ていました。幸いにもバッグは季節やサイズ、もっといえば国境だって関係ない。ノーシーズン ノーサイズ ノーボーダーです。だからこそ日常生活からもヒントは沢山あります。トレンドを掴むためにカジュアルバッグやビジネスバッグなどから学んだり、通勤している方がどのようにバッグを使用しているのか等にも気にかけるようにはしましたし、現在も常に心掛けております」

実は今回のバック、ボックス型のデザインになっているのは、荷物がたくさん入るというのはもちろん、スポーツ業界のみならずバッグ全体のトレンドをくみ取って採用している部分もあるという。

あらゆる分野のトレンドを吸収してきた篠原氏。もちろんこれまでになかったようなバッグを作るためでもあるが、トレンドを捉える重要性は身をもって知っているからだ。

「野球バッグは2016年ころあたりから従来主流だったエナメルのセカンドバッグからバッグパックになってきたと当時の担当から聞いております。その理由としては、スマホの普及率が70%を超え、両手を空けることの需要が高まったことや、ビジネスシーンでもバックパック型が主流になってきたタイミングだったことが挙げられます。当時、バックパックを採用したチームが甲子園で露出されることなどで翌年のトレンドになった部分も大いにあったと思います」

その後、次第にバックパックが浸透して現在に至っている。「本当に影響力は凄い」と甲子園の効果を改めて感じながら、トレンドを掴むことの重要性を再確認していた。

選手を思う機能とポケットの多さにNPB選手も太鼓判!

こうしてトレンドにあわせながらデザイン面と用具事情の両方の観点から、今回のバッグは誕生。既にプロ球団ではチームバッグで採用されるなど、契約選手からの反応は好評だ。

そこには大容量かつスタイリッシュでありながら、機能面もこだわり抜いた仕様になっていることも大きいだろう。

「約46リットルは容量が大きく多くの荷物が入りますが、その反面、バックの下の方にある荷物は取り出しにくいですよね。だから横からも荷物が取り出せるサイドアクセスを設計しました。また、パスケースやマスク、スマホのような小物もすぐに取り出せるような背面ポケットや、PCやタブレットの収納を想定したポケットも内部に設計しました。
大容量のため荷物が多く入る反面、その分重量は大きくなると思います。そういった選手への負担軽減という視点で、ミズノが特許を取得している機能「SPLIT STRAP」がその役割を果たしてくれています。この機能は、ショルダーベルトがよりフィットしやすくなることで、両肩にかかる荷物の負荷を軽減する機能になります。なので、最近は選手たちの荷物が増えていっていますけど、そのSPLIT STRAPが今回のバッグにも搭載されているため、移動の際にフィット感を感じていただけるかと思います」

他にも夜間でも見えるように再帰反射を入れたり、サイド部分にバットを固定して収納できるような機能を入れるなど、選手たちの声を吸い上げて、商品に落とし込んだ。

全ては選手の為ということを大前提に、今までの野球用バッグにあまりなかったデザインへのこだわりや機能が惜しげもなく詰め込まれた新作バッグ。もし店頭で実物を見た時には是非一度手に取っていただき、そのデザインの真新しさ、そして細かな機能の数々を体感してほしい。