昨秋・今春は県大会を制覇しながら夏の愛媛大会は準々決勝で伏兵・松山中央に延長タイブレークの末、無念の敗退を喫した名門・松山商。最速144キロ右腕・林 颯太投手(3年)をはじめ、スタメン9人中8人が入れ替わった新チームは当時から唯一のレギュラーだった安永 弦生内野手(2年)を主将に据え、「安永の背中についていく」(大野 康哉監督)方向性を前面に押し出して秋の闘いを迎えている。

 この宇和島東戦では「挑戦者」の姿勢と「伝統の力」を多くの選手が存分に発揮した。8回裏に3点ビハインドを一気に追い付く口火を切る2点打と10回裏・サヨナラ打を放った4番・安永はもちろんだが、特筆すべきはバッテリーの2人である。

 まず「絶対的エースの姿を背中で見せて頂いた」林から背番号「1」を引き継いだ右腕・小林 甲明投手(2年)は、最速139キロのストレートと120キロ台後半の縦スライダー、120キロ前後の横スライダーを中心に公式戦初となる2日連続での延長10回148球8奪三振1四球完投勝利。「1人1人の打者に対して意識する」気迫を携えての力投には、外野手兼控え投手だった宝塚ボーイズ(兵庫)から入学後、本格的に投手として育成した指揮官も「人間性がそのまま出ている」と称賛を惜しまなかった。

 加えてこの試合ではニューヒーローも飛び出した。大野監督が安永、小林と共に全幅の信頼を置いていた正妻・河野 匠真捕手(2年)の負傷により、途中出場した石丸 彰馬捕手(2年)は「内角を突いていく確認事項と河野のいい所を引き継いで、強い気持ちを持っている小林の自信を持っているボールを引き出すリードを意識した」と、宇和島東打線に対抗。加えて「自分でも自信がある」二塁送球2秒を切る強肩を投球練習後に披露。敵の足攻を事前に封じた。

 さらに石丸は1点をリードされたタイブレーク延長10回裏一死二・三塁の場面では「彼には叩きつけて一・二塁間を抜く打撃を教えてきた」大野監督の要求を体現する同点打。この試合で自己最速となる142キロをマークした菊澤 敬飛投手(2年)を攻略し、直後、安永のサヨナラ安打につなげてみせたのである。

 まさにミラクルの主人公となった石丸の父・裕次郎氏は、1996年夏の甲子園・松山商優勝メンバー。熊本工との決勝戦で、いわゆる「奇跡のバックホーム」を完成させた正捕手なのだ。

 その後、駒澤大~東芝と輝かしい球歴を歩んできた父より兵庫夙川ボーイズ時代、捕手としてのいろはを学んだ彰馬は中学2年で父と同じく松山商への進学を決意。そしてアクシデントにもすぐに対応しての好パフォーマンス。これぞ「伝統の力」である。

 かくして第2シードを撃破し、10月5日に行われる準決勝へと駒を進めた松山商。次なる相手は第3シード・小松と強敵続きだが、あくまで「一戦必勝」を彼らが貫くことができれば、2年連続秋の愛媛頂点、四国大会出場は決して夢ではない。