<文部科学大臣杯第76回全日本大学準硬式野球選手権大会:広島大11-6北海学園大>◇24日◇1回戦◇さがみどりの森県営野球場

24日から佐賀県を舞台に始まった文部科学大臣杯第76回全日本大学準硬式野球選手権大会(以下、全日大会)。今回で3年連続16回目の出場した国立大・広島大が、1回戦で北海学園大に11対6で勝利。初回に一挙7得点で主導権を握り、そのまま逃げ切って、嬉しい全国での勝利となった。

9回裏二死、ベンチにいた背番号7・稲田 惇聖外野手(3年=長崎西出身)は「連打を打たれていましたが、点差はあるので大丈夫だと思っていた」とマウンドにいた松本 康平投手(3年=加古川西出身)を最後まで信じてベンチで戦況を見守った。

最後のアウトを取った瞬間に、「先輩の分まで1勝したかったので良かった」と一安心しながら整列に向かったが、言葉以上に今回の勝利を心の底から味わっていた。

広島大は、監督はもちろん、コーチといった指導者は誰もいない。これは特別なことではなく、大学準硬式にとってはほぼ当たり前の光景。選手たちだけで練習を運営し、試合でも選手同士が協力し合って戦う。

ただ一部、監督など指導者がいるチームは存在し、そういったチームほど全国大会に勝ち上がりやすい状況にあるのが、大学準硬式の現状である。

だからこそ、広島大のような存在が全国大会に出場することは容易ではなく、主将・濱崎 大樹内野手(3年=松江北出身)も「普段はチームをまとめたり、メリハリを付けたりするのは難しい。オーダーを決めるのも、仲間だから情が移ってしまうときもあるので」と苦笑い。だからこそ、稲田にサインを出すように打診するのも、苦渋の決断だった。

だが、お願いされた稲田の思いは違う。元々は選手としてプレーしており、試合にも出場していたが、後輩の台頭など徐々に出場機会が減少。ベンチにいる時間が長引いていた。そんな中、2023年の秋に主将・濱崎から「サインを出してくれないか」と提案を受けたのだ。

「最初は面食らいました。ただポジションを奪われてしまったので、『何でもいいからチームに貢献したい』って気持ちは凄くありました。だから嬉しかったというのが、正直な気持ちです」

主将・濱崎がいわく、「クールな一面がありますが、熱い心を持っている選手です」と話すが、「人望は厚いし、チームのことをよくわかっている」と信頼を置いているからこそ、サインを任せた。

とはいえ、サインを出すのは簡単じゃない。試合中の流れを読み取って、最適な攻撃手段をサインで送る。稲田も難しさを感じるところがあると話すが、そんなことばかりではないそうだ。

「自分たちの特徴は打線のつながり。そして爆発力なので、まずは1点目をキチンと取ること。そこで流れを作って、一気に攻めていく形です。パターンになってしまうかもしれないですが、それを貫くことを大事にしています。スタメンオーダーも選手同士の相性など、普段から選手主体で活動しているからこそ、わかる形になっているので、サインは迷わないです」

高校までは監督をはじめとした指導者がいることが当たり前。稲田も「崩れた時に立て直しが難しい」とやはり苦労はある。国立大ということもあってか、練習も全体で出来るのは週1日、3時間だけ。それでも、「野球を楽しく取り組める。これが広島大にとって正解だと思います」と胸を張って学生主体の準硬式の良さを語る。

選手時代、高校時代にはわからなかった野球の面白さに巡り合った稲田。2回戦では愛知大との対戦だが、冷静かつ熱く仲間たちにサインを送って、ともに全国の猛者と戦う。