徳島で技術だけでなく“心”も成長

 加藤にとって11年連続ドラフト指名を続ける「NPB予備軍」徳島インディゴソックスの環境はいい意味でカルチャーショックを与えることになった。

「みんなの意識がとても高くて、自分の野球に対する考え方も変わりました。最初は思うようにいかなくて悔しい想いもしましたが、やっていくうちに野球が楽しくなってきたんです」

 するとまず、自分のアピールポイントがはっきりと見えてきた。

「交流戦でソフトバンク3軍や阪神2軍とも試合をしましたが、NPBの選手は打球の強さや送球の強さ、足の速さといった個人の能力が明らかに高かった。そこを高めながら結果を残すことが大事だと感じましたし、自分の持ち味は強い打球を打てること、肩の強さだと分かったので、そこをアピールしようと思いました」

 守備では球際を鍛えるため、橋本 球史コーチとより試合に近い形のノックを行った。打撃でも球団提携施設「インディゴコンディショニングハウス」で速球を打ち返すべく、スピード系のトレーニングにも着手した。

 野球に必死に打ち込む中で、いつの間にか課題だった「心」の成長も遂げた。

「ここまで試合数をこなすことはなかったし、リーグ戦前期途中から4番を主に打たせてもらうことになり、チャンスに凡退した時など特に気持ちの部分で大変な点がありました。僕は一打席一打席で一喜一憂するタイプだったので……。それでも橋本コーチや岡本 哲司監督から『打ち取られた時こそ堂々としていないとスケールの大きな選手になれない』というアドバイスを頂いたことで、チームのために全力でプレーする考え方が身に付いたと思います」

 技術、体力、そしてメンタルを鍛え上げた加藤。その成果は後期、数字として現れる。前期成績が打率.284、2本塁打、10打点でOPS.862だったのに対し、後期成績は打率.333、4本塁打、31打点でOPS.907。特に後期の打点はリーグトップの数値を記録したのだった。

明治大・宗山を追い越し「チームを勝たせる男」に

 目標にしていた3割を超え「打てるショート」としてNPBドラフトへ向けてアピールに成功した加藤だが、現状にあぐらをかくことは決してない。

「西川とは連絡も取ったりしていますが、『NPBは今まで積み上げてきたものが全て崩れてしまうような厳しい世界』だと聞いています。徳島では主力としてプレーさせて頂きましたが、NPBに入ったら一番下からのスタートになる。西武で活躍している山村からも刺激をもらっています」

 一方で、同級生へのライバル意識も強い。特に「今シーズンが始まってからずっと意識してプレーしてきた」と話すのは加藤と同じ遊撃手で今秋ドラフトの目玉・宗山 塁内野手(広陵―明治大)だ。既に広島が1位を公言している同級生に対し、「自分は宗山と比べてまだまだですが、追い付け追い越せの気持ちでやっている。彼が僕にとっての指標です」と闘志をむき出しにする。

 今季、徳島は圧倒的な成績でレギュラーシーズン前期・後期を制するもリーグの年間王者を決める「トリドール杯 チャンピオンシップ」では愛媛マンダリンパイレーツに2連敗。加藤自身も第2戦では4打数無安打と「チームを勝たせる打者になる」課題は次のステージに持ち越された。

 常に上を目指すためには課題はあった方がいい。東海大相模時代には想像もできなかった波瀾万丈の4年間を過ごし、心技体を一回り大きくした加藤は、真に「チームを勝たせる男」となる扉を開く瞬間を心して待つ。