夏に向け仕込んでいた秘策「髙尾カット」
じつはこの夏、吉岡はさらなる引き出しを増やすため、新たな秘策を仕込んでいた。
「実は広陵の髙尾(響投手・3年)くんからカットボールの投げ方を教えてもらったんです」
センバツベスト8の快挙から約1か月余りがたった4月末、「いろいろな選手たちと話して勉強になった」と話す侍ジャパンU-18代表候補合宿の成果とともに筆者の前で明かした秘話だ。
ただそのカットボールは習得にはまだ程遠い段階だった。吉岡の2年先輩である左腕・森山 暁生(中日ドラゴンズ)には、公式戦を迎える前に1種類ずつ新球種を伝授してきた髙橋 徳監督も「夏に向けてになると思います」とカットボールの本格導入には慎重な姿勢を崩さなかった。
当初、新球披露に格好の機会と思われたのは6月の徳島県高野連招待試合・大阪桐蔭戦であったが、結局は「練習試合ではたまに投げていますが、この試合では投げていないです」と”髙尾カット”の解禁を遅らせた。ストレートの質を追求しつつ、カットボール習得を同時進行させたことにより、ストレートのアベレージが130キロ中盤まで落ちる苦しい時期も経験しながら、彼は「その時」を探っていた。
「自分がゲームメイクして流れを作る」ためのラストピース解禁。準決勝の城東戦では試投も完了した吉岡は、鳴門渦潮との決勝戦で披露する予定だったが未完成のまま夏を終えることなった。
今大会で完成できなかった「髙尾カット」の習得。そして何よりも「勝つために」を優先するあまり球速を伸ばしきれなかったストレートの向上に取り組むためには、ここからの時間は格好かつ大事な時間だ。「一番楽しかった日々の練習」を共に過ごしてきたチームメイトの代表として、「地元を盛り上げたい想いでやってきた」野球のまち阿南にさらなる光を灯す存在となるために。吉岡 暖の挑戦は終わらない。