いよいよ明日に迫ったドラフト会議。昨年、NPBに入団したのは育成選手を合わせてわずか122人だ。
そんなアマチュア選手たちの実力を見極めるのは12球団のスカウトである。12球団のスカウトは選手のどこを評価しているのだろうか。またどんな苦労があるのだろうか。
スカウトとして大洋・横浜、巨人で数多くの選手獲得に携わり、巨人ではスカウト部長まで務め、現在は東海大の監督を務める長谷川国利氏が現在の巨人の主力選手たちの獲得秘話を語ってくれた。
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高卒下位指名の成長はスカウトの醍醐味
――高校生に関して、プロでも活躍できると判断する上で1番重要視していたところはどのような点ですか?
長谷川監督 当時は自分の担当で面白い選手がいたら1つ枠をあげると言われていました。下位で取れる選手として真っ先に推薦したのは東野 峻投手(鉾田一)です。腕のしなやかさと、スライダーの独特な曲がり方が面白いなと思っていました。彼が3年生の夏の大会で常総学院にコールド負けしたんです。簡単に点を取られて、当時見に来ていたライオンズさんなんかはすぐに違う球場に移動してしまって、これなら下位でも縁があるかなと思いました。のちに開幕投手もやってくれて、電話で感謝を伝えられた時は凄く嬉しかったです。
――下位指名から成長していくのもドラフトの醍醐味ですよね
長谷川 ベイスターズ時代だったら5位で指名した戸叶 尚投手(佐野商=現・佐野松桜)ですね。春先から何回か試合を見に行った時に、試合の初めから終わりまでスピードのずれがないんですね。この子体幹強いなと思っていました。
同じ年に吉田 道投手(東海大相模)もいましたけど、彼は夏になるとスタミナがなくなって、すごく汗をかいていたのを見ていました。結局吉田が2位で指名されて、5位の時に高松 延次スカウト部長に「戸叶は可能性を感じます」と推薦して獲得が実現したんです。
結局プロに入ってからはヒジを下げて自分の適性を見つけたことで、37年ぶりに優勝した1998年に2ケタ勝ったんですよね。当時はキャンプに行くと新人の選手をスカウトが車で送り迎えしながら夜間練習に連れていったり、バッティングピッチャーをしたりしていました。そうした選手が活躍したのであの時の優勝は本当に嬉しかったな。
――巨人時代では戸郷 翔征投手(聖心ウルスラ)も下位指名から日本を代表する投手になりましたね
長谷川監督 ドラフト当日、控え室から会場に行く前に、原監督がスカウトを前にして「自分の担当で下位でこれは化けたら面白いぞっていう選手はいるか」と聞いた時に、九州の武田 康スカウトが「ストレートと変化球の腕の緩みの差がなく、非常にバッターに向かっていく強い姿勢があるので、下位で縁があれば」と戸郷の名前をあげました。
選手を推薦するっていうのはすごく勇気のいることで、入った後ダメだったら「なんだ」ってなります。選手を見切るのも推薦するのもすごく勇気がいることなんですよ。
――勇気を出すために一番重要になることはどういった点だと感じますか?
長谷川監督 普段から熱心に仕事しなきゃできませんよ。スカウトの仕事は一生懸命やればいくらでも一生懸命できますけど、抜こうと思えばいくらでも抜けますからね。やはりチームの戦力を上げて優勝したいという思いがあるスカウトがどれだけ多くいるかだと思います。
――スカウト部長になられてからは責任感も増しましたか?
長谷川監督 僕は2018年のドラフトからスカウト部長に就任したので、プレイヤーとして戸郷が投げている姿を見ていなかったですけど、武田スカウトは大洋時代から一緒にやってきましたし、彼の仕事っぷりや人間性を見て「この人間がこれだけ推薦するのであれば」と、信頼して指名ができたということです。
高校生に「進学」を勧める理由
――高校生でプロに入るべき選手の定義はどう考えていますか?
長谷川監督 清原 和博内野手(PL学園)や、今で言えば浅野 翔吾外野手(高松商)くんのような選手であれば、プロの門を叩くべきだなと思います。そうでなければ、選手の寿命も伸びていますし、大学や社会人を経験しても全く遠回りにならないと考えています。ある程度経験を積むと人間的な成長もあるし、大学・社会人でレギュラーを張っている選手たちは、ファーストステージをクリアしたところからスタートできるので、プロでは即戦力として入ってこられるわけですから。
――巨人の山瀬 慎之助捕手(星稜)も当時に長谷川監督が絶賛するコメントを残されていた印象です。
長谷川監督 僕は彼の地肩にすごくほれ込んでいました。その年は東海大にいた海野 隆司捕手(関西―東海大)がいて、周りは多分原監督の母校でもあるし、巨人は海野をマークしているだろうというような話が出ていたのですが、僕は山瀬を取って欲しいと言いました。年齢層から考えても、大卒の海野選手よりも4つ下の山瀬がすごく欲しかったんですよ。
――高校生がなるべく進学した方がいいと考えると理由は何ですか?
長谷川監督 大学っていうのは勉強も当然するんですけど、1番多感な時期に親の仕送りを出してもらって、学校をでるということは人に対する感謝の念を持てるというのもあると思います。僕は中途半端にプロに入って2~3年在籍するというのであれば、大学に行ってから、しっかり自分の思いを持ってプロにチャレンジするのがいいんじゃないかなと思います。
――人間的な部分でも成長してから、プロ入りすることが重要ということですね。
長谷川監督 そういった意味ではセカンドキャリアも重要視しています。我々も手助けしますし、お手伝いさせていただきます。スカウトって預かるばっかりじゃなくて、その出口の仕事もするんです。
――巨人は引退された選手がスカウトや球団職員、ジャイアンツアカデミーのコーチなどに転身することも多いですね。
長谷川監督 巨人は母体として大きいので、セカンドキャリアは多いですよ。スカウトはただ取ってくるだけじゃないんです。品評会でぱっと見て、美味しそうなお菓子があったからこれがいいや、とはならないんです。吟味するからこそ推薦するのも勇気が必要になるし、覚悟も必要になる。それだけ人生をかけないと、人の人生を動かす仕事はできません。