高校野球の歴史に輝く数々の名選手を輩出してきた早稲田実業にいま、新たなスターが誕生しようとしている。

 宇野 真仁朗内野手(3年)だ。

 高校通算61本塁打(6月時点)のスラッガーで、3月以降、10本以上放ったホームランはすべて木製バットで打ったものである。

 もちろんプロのスカウトも宇野を追っている。春季東京都大会では宇野のプレーを熱心にビデオで撮影するスカウトたちの姿が見られた。

「清宮(幸太郎・日本ハム)、野村(大樹・西武)とはタイプがまるで違いますが、2人と比べられるような才能を持った選手であることは間違いありません。バックスクリーンの奥深くまで運ぶ飛距離を持ちながら、2人にはない走塁技術、そして未知数な守備も魅力があります」(早実・和泉実監督)

 早実と言えば早稲田大への進学が基本だが、宇野は進路をプロに見据えている。

「プロ野球選手というのは、野球を始めたときから目指すべき場所だと思っています。夏次第だと思っていますが、行けるチャンスがあるのならば行きたいです」

 そんな宇野の最後の夏にかける思いを訊いた。

新基準バットへの違和感

 春季大会での宇野のパフォーマンスは別格だった。初戦の立正大立正戦でいきなり本塁打を放ち、3回戦の都立雪谷戦でも第2打席でレフトへ本塁打。さらに4回戦の明大中野戦では最終打席となる5打席目にホームラン。3試合連続本塁打を記録したのだ。

 いずれも両翼98メートルあり、都内の球場では広いといわれるスリーボンドスタジアム八王子で記録したもの。新基準バットになって以降、なかなか本塁打も出にくい試合が続く中、宇野の木製バットでの活躍は大きなアピールとなった。

 その中で宇野がベストと振り返ったのが明大中野戦での本塁打だ。

「明大中野の先発はサイドスローの佐伯(魁栄)投手で、緩急をうまく使ってきました。自分は初球からどんどん狙っていきましたが、どうしてもタイミングが合わなくて、体が流れてしまっていました。そこで『感覚を遅らせてみよう』と打席に立ったんです。右足に意識をおいてみると、自分の感覚で打つことができました。あそこまで飛ぶとは思わなかったです」

 宇野が木製バットを使うようになったのは冬の練習がきっかけだ。

「昨秋の都大会が終わってから新基準バットで練習を始めて、練習試合でも使ってみました。しかし、どうも感覚が合わないですよね。自分の中で本塁打だと思った打球がフェンス手前で失速してしまう。冬の練習で木製バットを使ってみると、しなりも使えて、打球も飛ぶんです。自分は打球を乗せるイメージでバッティングをしています。木製バットは詰まれば飛びませんが、芯で捉えることができれば自分のイメージ通りに打球が飛びます。良い結果も悪い結果も自分にとって違和感がなかった。木製バットは自分に合っているんです。

「強く振れば木製バットは折れない」

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