「ホームランは良かったんですけど…それよりも3三振の悔しさの方が大きかったです」
豊川のモイセエフ ニキータ(3年)は、そうセンバツを振り返った。
秋の大会で打率.571、6本塁打32打点10四死球、と圧倒的な打撃成績を引っ提げて“大会の主役”として乗り込んだセンバツ。実際、モイセエフの放った右翼への弾丸ホームランは衝撃的だった。「飛ばない新基準バット」など関係ないパワーを見せつけた。
しかし、チームは4-11の大差で初戦敗退。モイセエフも阿南光のドラフト候補・吉岡 暖投手(3年)から本塁打で一矢報いたものの、5打数1安打3三振の結果に終わったのだった。
あの悔しさから4ヵ月弱。バットを振り続けたモイセエフは、大きな進化を遂げている。
木製バットで120m超の特大弾連発
広大な豊川のグラウンド。そこで見たモイセエフの打撃は衝撃的だった。
16時前、ほかの選手たちより早くアップとティー打撃を行い準備が完了したモイセエフは、木製バットを持って打席に立ち、フリー打撃を行った。彼の練習を見るのは昨年12月以来。どんな成長を見せてくれるのだろうか。
強烈なスイングで振り抜いた打球は次々とスタンドインしていった。ライト方向だけではない。レフト方向にも、中堅123メートルもあるバックスクリーンにも強烈な打球をぶち込んだのだ。
モイセエフは2年生のときから高卒プロ入りを見据えて、木製バットで打撃練習を行ってきた。昨年見たときは、良い当たりもあったが、柵越えはなかった。また、打ち損じの打球も多くあり、対応に苦しんでいるように感じた。
もうそんな姿はなかった。ここまで木製バットで本塁打性の当たりを量産できる高校生打者はなかなかお目にかかれない。過去に筆者が見た中では、石塚 裕惺内野手(花咲徳栄)、真鍋 慧外野手(広陵-大阪商業大)ぐらいだ。
“センバツ3三振”が成長のきっかけ
センバツ3三振の悔しさがこの成長につながっている。
「(阿南光・吉岡について)あんなにフォークが良い投手は初めてでした。さらに一打席ごとに配球パターンを変えてきて…本当に攻略が難しい投手でした」
今のままでは好投手を攻略できない――。そう考えたモイセエフは、打撃フォームを修正した。
それまでモイセエフのトップの位置は非常に高く、頭よりも上にあった。現在はグリップの位置が頭より下がった位置になり、よりシンプルな構えになった。さらに踏み出す際に軸足(左足)が開いてしまうクセも直した。
「トップの位置が高すぎたことが無駄な動作につながっていました。今まではそれでも打てていましたが、吉岡くんのようなレベルになると打てない。開きが早くなったことで、肩に力が入り、バットが出ませんでした。そういった部分を直して、ヘッドが効くスイングになりました。ボールも見やすい形になり、ボール球、変化球に手を出すことが減ったと思います」
春の県大会では13打数9安打の活躍を見せた。準決勝の享栄戦では4打数3安打を記録し、強豪校の投手に対してもしっかりと結果を残した。
「あの試合ではすべて2ストライクに追い込まれてから、ポイントを下げて逆方向へ打ち返すことができました。状況に応じてアプローチを変えたことで、打率を残すことができたと思います」