徹底したフィジカル強化でスラッガーとして化ける

 今年の5月、モイセエフの打撃練習を見た時、衝撃を受けた。木製バットで両翼100メートル、センター123メートルの豊川グラウンドで、レフト、ライトに本塁打を打ち分けるだけではなく、センターにもホームランを打ったのだ。どの打球もすべてライナー性で、巨人ドラフト1位の石塚 裕惺内野手(花咲徳栄)にひけをとらないものがあった。センバツが終わってからも成長を続けるモイセエフ。7月の夏初戦では各球団の幹部クラスが視察したという。

 これほどの打球が打てるのは、フィジカルアップを怠らなかったのが大きい。モイセエフは入学当時66キロだったが、現在は87キロと20キロ以上も増量に成功。特にベンチプレスが大きく伸びており、昨年12月は105キロだったのが、今年の5月には130キロとなっていた。継続的にフィジカルトレーニングに取り組んで、数値を高めたところも評価できる。ヤクルトは今年の指名でフィジカルを重視したと言われている。ドラフト4位の田中 陽翔内野手(健大高崎)も高校野球の引退後、毎日、ウエイトトレーニングに取り組んでいて、かなりがっしりした体型となっていた。その方針にモイセエフは合致していた。

 大学生、独立にも意識が高い選手は多いが、彼らよりもモイセエフに将来性を感じたのだろう。

 モイセエフは有言実行の男だ。豊川グラウンドのあるベンチには選手の目標が書かれた「目標設定シート」がある。1年生の時に短期的な目標に「ベンチプレス100キロ」、中期的な目標では「ホームランを打てる体作り」、長期的な目標で「チームの中心選手」、最終目標として「プロ」「甲子園」と書いた。それを見事に叶えた。

 高校3年間、自分を見失わず、右肩上がりの成長を見せたように、プロでも右肩上がりの成長を見せたい。ヤクルトは主砲・村上 宗隆内野手(九州学院)が来オフ、メジャー移籍後が確定的。次世代を担うスラッガーの確保と育成が急務だ。モイセエフがそのピースを埋めることを期待したい。


打撃練習に励むモイセエフ